File13 柴宮哲造
俺は九鬼泰照。罪を認めない者を暴露する男だ。
さぁ、今宵も暴露屋に依頼者が訪れる。
今回の依頼者は20代位の青年だった。そして、職業はというと…
「自分、野球選手なんです」
「そうなのですか」
「はい。まぁ……まだ二軍ですが…」
永野信一と名乗った青年は、口を開けた。
「相手を潰すために、自分の選手を利用した挙げ句殺害させた監督を潰してください!」
苦虫を噛むように、永野は悔しく語りだした。
永野は、超有名野球チーム、『ブレイクライズ』の二軍に所属にしていた。
彼は若手ながらも可愛がれており、特に一軍の選手である代々木恒隆は永野に焼肉を奢ったり、バットやグローブ等を渡したりして、永野の成長に『投資』していたのだ。
しかし、代々木は強靭な選手揃いのブレイクライズの中では一番成績がよくなく、二軍に落とされるのも時間の問題だった。
そして、代々木は野球界に歴史を残すような大事件を残してしまう。
それは、敵チームである『ジャンボトワイライト』との試合の前日。練習をしていた代々木の前に監督である柴宮哲造が現れ、こう言った。
「今夜、俺の家に来い」
その夜、柴宮は自分の家に代々木を入れた。
家には男二人。誰も二人の話を聞こうとする者はいなかった。
柴宮は代々木に言う。
「明日のジャンボトワイライト、四番選手、南純悟を潰せ」
「へっ?」
代々木は自分の監督が何を言っているか最初は分からなかった。しかし、繰り返される『南純悟を潰せ』という言葉は、間違いではなかった。
「正直言って、南はブレイクライズの成長に邪魔な人間だ。潰したいんだよ、南を。お前は、正直言って一軍の中で使えない選手や。だから、最後は利用するだけ利用するんだよ。お前は球速だけはいい。それで腕でも脇腹でもなんでも潰せばいい。最低、野球人生を閉じさせる位の怪我を負わせろ。あと、人には言うなよ」
代々木はその言葉を断る事が出来なかった。
何故なら、断れば二軍に落とされる。その恐怖が代々木に纏わり付いた。
そして次の日、試合が始まり、四番選手である南にバッターが代わったとき、ピッチャーが代々木に代わる。
そして、代々木は、球速160キロ超えのボールを肩に当てるつもりであった。
しかし、代々木が想像もしていない事態が起こる。
なんと、南はバントをしてきたのだ。姿勢が低くなった南の顔に、ボールが当たった。
南はそれを受けた瞬間、鼻血を出して倒れた。これにはキャッチャーや審判も驚き、球場にいた柴宮以外が固まった。
そして、南は救急車で運ばれ、その場から逃げた代々木はバッシングを受けた。
後にこの事故は『豪速ボール直撃事故』として、連日ニュースに取り上げられた。南は顔の7割程の骨が全て折れ、野球人生を閉じることになった。
最終的に代々木は、野球界から追放されたのだ。一人の野球人生を閉じさせた人間として。
しかし、この事に疑惑を感づいていた人間がいた。それが、永野であった。
(あの心優しい代々木さんがあんなことする筈がない)
そう考える永野はとある日、代々木を自分の住む寮に呼ぶことにした。
しかし、待てど暮らせど代々木は来ない。
不審に思った永野は寮周辺を探し出した。
そして、遂に永野は代々木を見つける。最悪の状態で。
永野が見つけた代々木は倒れていて、顔から血を出し、腹に何か斬られた痕跡があった。
「代々木さん!」
永野が駆け寄ると、代々木は虫の息だった。
「救急車を!」
「豪速ボール直撃事故の……指示をしたのは……監督だ」
「監督が!?」
「これに、証拠がある…どうか…俺の……仇を……」
永野に自分のスマホを渡すと、代々木が息をすることは無かった。
その後、代々木の遺体が救急車に乗せられ、永野は自分の寮に戻り、代々木のスマホの電源をオンにした。そして、すぐに映し出されたのは、自分が柴宮に命令されてやったという内容が羅列されている画面だった。
(嘘…だろ……)
この事に絶望し、ここに来たのだとか。
「どうかお願いします!世間は代々木さんが悪いという風潮がありますが、真に悪いのはこの監督だ!強要された人間が落ちて、何故監督のような人間は逮捕されない!それなら、世間体なんてクソ喰らえだ!」
尊敬している先輩を失った怒りと悲しみ。その感情が俺によく伝わった。
「わかりました。では、この暴露屋、柴宮を地獄に落としましょう」
俺はまず、柴宮の事について詳しく調べ上げた。
柴宮哲造。59歳。ブレイクライズの監督で、時代に合わないスパルタ指導をすることで悪い意味で有名である。
さらに、半グレ組織と関わりがあるため、例の事故を世間に暴露しかねない代々木をその組織の構成員二人を使って殺害。
俺はこの事をマスコミにリーク。そして、野球界隈ではこの事が大荒れ。柴宮を知っている人間からは『一線超えたな』と飽きられていた。
そして、柴宮は球界から追い出され、強要罪等で逮捕された。
それはそうと、代々木を殺した構成員はというと、何故か行方不明者扱いになっていた。何故だろうか…………?