File12 岩佐繁久
俺は九鬼泰照。暗闇の秘密を世に表す男だ。
今宵も暴露屋に依頼者は訪れる。
今回の依頼者は、気弱そうな青年だった。名は津原裕治と言った。
「依頼内容を」
「相方を植物人間にするよう指示した人間を社会的に抹殺してください」
そう言って、津原は語り始めた。
津原には、とある友人がいた。名前は唐田和利。
津原と唐田はコンビで芸人を組んでいて、コンビ名は『カラハラ』。唐田がボケで津原がツッコミである。
彼らは売れない芸人だった。時々お笑いのショーにでるも、彼らが人気になることは無かった。
しかし、彼らに希望が訪れる。
カラハラが所属している芸能事務所、『トレロン芸能事務所』が開いたショーにカラハラが出ることになったのだ。
そこでカラハラは爆発的なヒットをしたのだ。
そこからカラハラは光合成を受けた植物のように急成長した。
ニュース番組のゲストやCMの出演、ましてや、冠番組を持つことになった。
しかし、その栄光に嫉妬していた人間がいた。
それは、60を過ぎたベテラン芸人、岩佐繁久だった。
岩佐は若い頃は人気であったが、今の若い世代にとっては、岩佐はオワコンとして扱われていた。
そんな岩佐にとって、彼らは『自分の人気を取った邪魔者』でしかなかった。そして、岩佐は非道を進むことになる。
ある日の事、二人はマネージャーが運転する車で移動していた。
すると、一人のチンピラが車の前に止まり、車を急停止させた。
マネージャーはそのチンピラに注意するために車を出た。しかし、そのチンピラは、バットを振りかぶり、マネージャーを気絶させた。
近づいてくるチンピラ。二人は急いで車から出た。しかし、出た先にはもうひとりのチンピラが。津原が警察を呼ぼうとすると、後ろから鈍い音がした。
後ろを振り向くと、そこには頭から血を流した唐田の姿があった。
津原はパニックに陥った。『もしかしたら自分も殺される』と考えてしまい、何も出来なかった。
その瞬間、奇跡が起きた。
「何やってるんだ!君達!」
その声にチンピラ二人は逃げ出し、たまたま見回りをしていた警官がこちらに近づく。
「大丈夫ですか?」
「あ…あ…えと…」
津原は安心感からか、気絶してしまった。
気付けば津原は病院にいた。そして、隣には目をつぶった相方がいた。
「おい!唐田!大丈夫か!?」
すると、医師が津原の元に来た。
「津原さん。受け入れたくないでしょうが、聞いてください。唐田さんは、今現在、植物人間状態です」
医師の話によると、例のチンピラにバットで叩かれたときに脳を損傷して、このような状態になったという。
津原は、下唇を噛んだ。
それから数日後、例のチンピラ二人は逮捕された。どうやらその二人は半グレ組織の人間で、とある人間に指示されてやったのだとか。そして、その指示をした人間というのが、あの岩佐であるのだ。当の本人は、『そんな指示をした覚えはない』と言っていた。
そんな中、津原はとある人間に呼び出された。それは、唐田を襲ったチンピラの一人、宇喜多からだった。
「俺はとある情報を知っている。それを聞きたければ誰にも話さないことなんだな」
宇喜多ともう一人の実行犯、坂木は半グレ組織、チーム絵札の傘下、無限絵札の末端構成員だった。
そんなある日、チーム絵札を懇意にしている岩佐からこんな指示が出たのだ。
「カラハラのどちらかを殺ってくれ」
カラハラの殺害に駆り出されたのが、宇喜多と坂木だったのだ。
証拠もあり、何故それを警察に見せなかったのかは、本人の口からは言わなかった。
そして、ここに来たのだという。
「お願いします。どうか、岩佐を社会的に抹殺してください!」
「了解しました。では、奴を地獄に落としましょう」
俺は岩佐を徹底的に調べ上げた。
岩佐繁久。60歳。芸人界の大御所で、彼を慕う芸人は腐るほどいる。チーム絵札や無限絵札、関係組織の武蔵野会を懇意にしており、彼の気に入らない芸人の抹殺には構成員をこき使っている。
俺は岩佐の闇の部分を世間に暴露した。その事により、岩佐は地獄に落ちることになった。
次の日。俺は比嘉と伊波を連れて情報収集の為に夜道を歩いていた。
すると、目の前から銀髪の男と赤シャツを着た男がこちらに近付き、止まった。
「君たち、藤松会の人間だね」
そう言い放った男は、この間俺達に姿を見せた遊佐だった。
比嘉が言い返す。
「そうだけど、何か用かい?」
「そうか。じゃあ、君達は完膚なきまでにやってやるよ」
遊佐がこちらに駆けてくると、俺達は戦闘の構えをした。
しかし、遊佐は早く、伊波の顎をアッパーで殴った。
「ゲヒッ」
「伊波ッッ!」
伊波に気を取られていると、次に遊佐は比嘉に発剄をかましたのだ。
「ウブッ」
「くっ…待ってろ!今すぐ」
「お前は俺が相手だ」
どうやら、狙いは俺のようだ。赤シャツの男は持っていた鞘から長ドスを取り出した。
「俺は長ドス使いの塔尾豪介!お前は今すぐ死〜ぬ!」
塔尾は長ドスを振りかぶった。しかし、俺はそれを素早く避けた。
「ケッ。避けたか。たくっ……岩佐のオッサン、馬鹿な事しやがって。わざわざ殺害のために下の人間を使うんじゃねぇよっ!」
なんと塔尾は、バットを振りかぶるようなフォームで横薙ぎをした。
「キッ…」
一ミリ差で当たらなかったものの、俺は恐怖した。
(まさか、長ドスをバットを振るような感じで使うとは…)
俺はコイツを後にして、二人の救出に行った。
二人を見ると、伊波は倒れていて、比嘉は気絶気味だった。
「くっ…伊波ッ、比嘉ッ!」
俺は二人を担ぐと、その場から退散した。
「クッ……すいません…九鬼さん…」
「いいんだ、お前らが生きているんだったら。今すぐ病院に行くぞ」
俺は無限絵札の恐怖をこの身で味わうことになった。