下級スキル「なぎはらい」俺が使うと一振りで世界を半周し、壊滅級の被害をもたらすんだがどうしたらいい?
この国では15になると、地母神さまからスキルをさずかる。
そして今日は俺の15の誕生日だ。
いったいどんなチート能力がもらえるのだろう。
え? なんでチート能力だってわかるかって?
それは俺の家系は代々ユウシャの家系で、みんな決まってチート能力をさずかるからだ。
だから俺もきっとすごい能力がもらえるに決まっている。
「あぁ、楽しみだなぁ」
「いいなぁカミルは、うらやましいよ」
隣の席の子が言った。
幼馴染のヨーシャだ。
ヨーシャは髪の白いかわいい女の子で、俺の家の隣に住んでいる。
「ヨーシャだってきっといい能力がもらえるよ」
「だといいなぁ」
ヨーシャと雑談をしているうちに、いよいよ俺の番だ。
「カミルくん、前にきなさい」
校長先生が、地母神さまの巨大な像の前で俺を呼んでいる。
みんなの注目が俺に集まる。
当然だ。俺はユウシャの家系。みんな俺のもらう能力に興味津々なのだろう。
「さぁ、ここに跪いて、手を置き、祈りなさい」
俺は言われたとおりにする。
パァっと明るい光に照らされて、身体の中になにか不思議な力が湧き上がるのを感じた。
「うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
「それでは、スキルを見てみなさい」
「よし! ステータスオープン!!」
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カミル・ユウシャ 15歳 男
レベル:5
HP:100/100 MP:50/50
攻撃力:70
防御力:35
ユニークスキル:【なぎはらい】
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「……………………は?」
「え?」
「な、なんだこれ? なぎはらい……?」
俺の目の前が暗くなる。何も考えられない。
すると周りから笑い声が聞こえてきた。
「あっはっはっはっは! なんだそれ、なぎはらい? それがユニークスキルってマジかよ!」
「そんな誰でも使えるような下級スキルがユニークスキルだなんてかわいそうだな」
「ユウシャの家系が聞いてあきれるぜ。あいつの家も終わりだな」
みんな口々に好き勝手言っている。
笑わないでいてくれたのは幼馴染のヨーシャだけだ。
くそっ! 俺だって好きでこんなスキルをもらったんじゃない!
今笑った奴らは絶対に許さない! 顔も覚えたからな……!
俺が悔しくてわなわなしていると、校長先生がみんなを止めた。
「これこれみなさん、そんなに笑うものじゃありませんよ! ……っぷ、だめだ私も我慢できん。わっはっはっはっは」
くそう……この校長も許さない!
俺は耐えきれなくなって飛び出した。
家に帰れば両親が慰めてくれるはずだ。
両親はユウシャの家系にふさわしい人格者だし、それに俺をすごく愛している。きっとなにか他の方法で俺を強くする方法も知っているはずだ。
「ただいまー」
「……………………」
「?」
両親は浮かない顔で黙り込んでいる。
「カミル……儀式のようす、水晶で見ていたぞ……」
そういうことなら話が早い。
「なにか方法はないかな? 俺、こんなヘボスキル嫌だよ!」
ばしっ!
急に父は俺の頬を叩いた。
「何を寝ぼけたことを言っているんだ! それがお前の地母神さまから授かった大切なスキルだろう! 地母神さまを信用できないのか!?」
そうか、父は俺に、ヘボスキルでも大切な才能だから大事にしなさいと伝えたかったんだな……。
なんてできた性格の父なんだろう。感動した。
ありのままの俺を認めてくれたのか。
そう思ったのは間違いだった。
「つまり、それがお前の才能だということだ。お前は正真正銘のクズだ。ユウシャの家系の恥さらしなんだよ! いいから出ていけ!」
そんな! あの優しかった父が、そんなことを言うなんて。
それくらいスキルというのは重要だった。
俺はすがるように母を見る。
「お父さんの言う通りよ! あなたはもう家の子じゃない! 消えなさい、無能」
「……っく!」
俺は耐えきれなくなって、また飛び出した。
ひたすら町を走り続ける。
俺を見た人がみんな笑っている。
俺はユウシャの家系ということで注目されていたから噂の広がりも早いのだ。
それに、儀式のようすは水晶を通して世界中誰でも見れるから、みんなが知っていてもおかしくない。
つまり俺は国中の笑いもので、国中で馬鹿にされているというわけだ。
「くそう! この国にはもう居場所なんてないのかもしれない……」
いつの間にか町はずれの草原に来ていた。
ここなら一人になれそうだ。少し頭を冷やして落ち着く必要がある。
と思ったのだが、そうはいかないようだ。
誰かが近づいてくる。
「よう、ユウシャ、カミル」
ガキ大将のオレジだ。
オレジは俺をあざ笑いにきたんだろう。そういうやつだ。
「なんのようだ?」
「お前、クソスキルなんだってなぁ。ユウシャのくせに。まぁ俺はいいスキルをもらったけどな! がっはっはっはっは」
つまり自慢しに来たってわけか。
「うるさいなぁ」
「おいおいそんなこと言っていいのか? お前は雑魚で俺は強者。俺はいつでもお前を殺せるんだぜ? ユウシャを殺した男となれば、地母神さまも俺を新しいユウシャと認めるだろうな!」
「おいおい、正気かよ」
「死ねぇ! アイスソード!!」
オレジはそう言って氷の剣をスキルで生成すると、俺に襲い掛かってきた。
くそうここで死ぬのか……。
だがタダでやられる俺ではない。
むざむざやられるくらいなら、最後まで抵抗してやる。
俺はダメ元でゴミスキルを放った。
そう、それはただの手刀。ただ空間を薙ぎ払うだけの技。
「なぎはらい!!!!」
その瞬間、この世界を強烈な振動が襲った。
俺のなぎはらいは、一言でいうと、ただのなぎはらいではなかった。
俺専用のなぎはらいスキルだったのだ!
空間振が世界の半分を一瞬で破壊しつくした。
この世界は半分が俺たちの人間界で、もう半分が魔物界でできている。
そのうちの人間界ぶぶんが、ほぼほぼ壊滅級の被害を受けた。
もちろん目の前のオレジもどこかへと吹っ飛んだ。
「なんて威力だ……!」
俺は自分の力が信じられなかった。
そうだ、家はどうなっているだろうか。
見捨てられたとはいえ、親は心配だ。
まあ彼らはユウシャだから大丈夫だろう。
それより町や他の人間はどうなったのだろう?
俺は情報集めのために、儀式をしていた神殿に向かった。
神殿にはみんなが避難していた。神殿は丈夫なのだ。
校長先生がみんなに説明している。
「どうやら、人間界に壊滅的な被害があったようです。おそらくこれは魔王の仕業でしょうな。こんな力を持っているのは魔王で違いありません。これからさき戦争になるでしょう」
◇
それから、人間界VS魔物界の大戦争が始まった。
魔王には心当たりなんてなかっただろうが、売られた喧嘩は買うのが彼ら魔物だ。
俺はその間に力を制御することを覚えた。
そう、なぎはらいの威力や距離を抑えることができるようになったのだ!
「くそう! もうだめだ! 俺たちでは魔王軍に勝てないのか!」
俺の父が戦場で戦っているのが水晶ごしに見える。
彼はユウシャだから一番の戦力として期待されているのだ。
俺を追い出したとはいえいちおう親だから、そろそろ助けに行ってやるか。
俺が戦場に着いたころには、兵も減っていよいよ追い詰められていた。
そこに俺、参上。
「カミル! 生きていたのか! だがここはお前のようなクズスキル持ちがくる場所ではない! 帰っておとなしくしていろ!」
「そうもいかない! 自分でまいた種なんでね……! 魔王は俺が倒す!」
「馬鹿いうんじゃない! そのなぎはらいでどうやって倒すと言うのだ!」
「こうやってさ!」
俺はなぎはらいを使った!
――ブン!!
こんどは力を制御して、魔王軍だけに当たるようにしかける。
なぎはらいの衝撃波は、またも一瞬のうちに世界を半周して――
――こんどは魔物界がわだけに被害を与えた。
力を圧縮して放ったから、ほとんどの魔物はいまので死んだはずだ。
「なんだその力!?」
父は驚いている。
「これが俺のなぎはらいさ」
「そんな! そんな力だったなんて……よく確認もせずに追い出して悪かった。父さんが間違っていたよ、この通りだ。謝る、ごめん」
父は土下座した。
「いいんだ、父さん。それより、戦いはこれからだよ」
「なに!? いまので魔物は全滅したんじゃないのか?」
「いや、まだ一人残っている」
魔物の死体の中から現れたのは、魔王。
「フン、人間よ。さっきの攻撃はすさまじかったな。だが、他の魔物はアレで倒せても、我まで殺せるなどと思うなよ? 我は魔王ぞ!!」
さすが魔の王だ。あれを喰らっても傷一つついていない。
だがそれにひるむ俺ではない!
「ならばもう一発喰らうか?」
「よろしい、来い! 人間よ!」
俺は指先に力を集中させた。
今度は力を制御して、一点に圧縮させる。
世界を半分壊すほどの力を、指先だけに集めたら、いったいどれだけの威力になるだろう?
「うおおおおおおおおお!! なぎはらい!!!!」
「フン! なんだその下級スキルは! そんなもので我を倒せるはずが……っな!?」
俺のなぎはらいは魔王の腹を貫いた。
「そ、んな!? ばかな……我の身体は、大魔術師やユウシャの攻撃をも完ぺきに防ぐ、不死身のボディなのに……!?」
魔王は驚いているようだ。
「これは普通のなぎはらいじゃない! |世界を半分壊すほどの力を、一点に圧縮した、最強のなぎはらいだ!!」
「な、なんだと!?」
魔王はそのまま絶命した。
「やったぁ!」
人間側の軍がみんな喜びの声を上げる。
父もこちらに駆け寄って来た。
「カミル……さすがはユウシャの家系だ……! 俺なんかよりもすごい! お前こそが最強の、真のユウシャだ!!」
◇
「いやあカミルはすごいな! 一人で魔王を倒すなんて」
「ああ、さすがはユウシャの家系だ!」
俺は人間界の英雄となった。
水晶を使って世界中にそのことが伝えられ、俺はいまでは有名人だ。
「カミルさま、わたくしと結婚してください!」
世界中の女が俺に言い寄って来た。
「ま、まあ妾や第二婦人以降なら考えるよ……」
だってこいつら、いままでさんざん俺を馬鹿にしてたからな。
それに、俺には心に決めた女性がいる。
「それはわたくしですか?」
王女も言い寄って来た。
「ちがう」
だが断る。
聖女も、貴族も、王族も、俺は全部返事を保留にした。
まああとでハーレムに入れてやってもいい。
「ではカミルさまはいったい誰と結婚なさるおつもりなんですか?」
女たちに囲まれて、俺は答えた。
「それは、お前だ!」
俺が手を握ったのは、幼馴染のヨーシャだ。
「え、私!? いいの? カミルは今や国の英雄なんだよ? 幼馴染だからって、私みたいな地味な子を選ばなくったって、誰でも選び放題なのに……」
ヨーシャは顔を真っ赤にしている。
周りの女たちも違う理由で赤くなっている。怒っているのだ。
「どういうことですの!? 私たちのような貴族を無下に断っておいて、そのような平民の、地味な女を選ぶなんて……!」
「いいだろう……教えてやる。ヨーシャはなぁ、俺の幼馴染ってだけじゃなくって、俺を唯一笑わなかった女の子なんだよ! お前らみたいなすぐに手のひらを反すビッチと違って、本当にいい子なんだ。それに、よく見てみろ、お前らの数倍かわいいぞ!」
女たちは怒って呆れて、どっかに行ってしまった。
それでも残った奴らはあとでハーレムに迎え入れてやろう。
「カミル……私、うれしい!」
ヨーシャは顔を真っ赤にして、俺に抱き着いた。
その後俺たちは結婚した。
俺たちの子供もユウシャの家系として生まれるだろう。だがもし彼がろくなスキルを与えられなかったとしても、俺は絶対にそれを馬鹿にしない。
俺はそれを深く心に誓った。
俺はその後もすごい活躍をした。
英雄ということで、世界の半分くらいの富を手にした。
そして王国を運営し、何人もの女をはらませた。
だが俺は決してそれをむやみに誇示しなかった。
富は家臣や、国民にちゃんと分け与え、健全な運営をした。
おかげで俺は歴代でももっとも立派な王として生涯を終えるに至った。
バカにされた俺だからこそ、人々を愛し、大事にすることができたのだ。
ヨーシャのことも息子のことも深く愛し、俺は幸せな生涯をおくったと言えるだろう。
これで俺の物語はおしまいだ。
――完。