6.お誘い
麻耶からの誘い
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「麻耶、どうしたんだ。そんなところによりかかって」
用があるなら家に入って待っていればいいのに。麻耶は俺に気づくと笑って手を振って言った。
「よっしー。うん。実はね。昔、小さい頃よく行っていた浦安神社の花火大会って覚えてる」
「ああ、よく俺と麻耶の家族で見に行ったあれな」
俺らの家から少し歩いたところに浦安神社があって、そこで屋台が出たり、毎年花火が打ち上げられるのだった。小さい頃は毎年麻耶と俺の家族で花火を見て帰るのが恒例行事になっていた。最近は全然行っていなかったけど、あそこはまだ賑わっているのだろうか。
「それが、どうした」
「うん。それに久しぶりに行かないって事だったんだけど」
「え、麻耶と二人で?」
「べ、別に嫌ならいいんだ。別に」
どういう風の吹き回しだ。いつもはそんな誘いなんてしてこないのに、この年になって一緒に花火に行こうだなんて。花火に行きたいなら、部活の友達と行けばいいのに。麻耶は俺と違って友達がたくさんいるんだから。なんで、俺なんかと。しばらく理由を考えていた。ああ、そうか。なるほど。分かった。そういえば、あそこって一つだけ男女ペアじゃないと入れない展望台みたいなところがあったな。麻耶はそれに行きたかったのか。そんな事なら早く言えばよかったのに。まったく水臭いな。
「別に嫌じゃないよ。麻耶。あそこの展望台に入ってみたかったんだな」
「え? ああ、うん。そうなんだよ。実はあそこに小さい頃から入ってみたくて。ほら、小さい頃はお父さん達がいたから興味があっても入れなかったし」
あそこは花火がよく見えるスポットなのだが、小さい頃は親にまだ早いって言われて入れなかった場所だった。確かに俺もあそこには行ってみたかったしちょうどいい機会だな。
「いいよ。麻耶。俺もその日はちょうど予定がないし、一緒に花火見に行こうか」
といった。麻耶は俺が言うと嬉しそうに顔を輝かせた。その顔はまるで子供のようで小学生の頃と変わっていなかった。
「本当に。一緒に行ってくれるの?」
「嘘ついてどうするんだよ」
たかが祭り一つでこんなに喜べるなんて本当に麻耶は幸せな奴だ。麻耶は嬉しそうに楽しみにしているね。というとそのまま自分の家へ入って行ってしまった。そんな麻耶の様子を見ていると、俺もまた祭りが楽しみになるのだった。
次の日。俺はうるさい通知で目を覚ました。寝ぼけ半分で携帯を見ると、朝からシンガーミクス養成学校のグループチャットが賑やかなことに気づいた。内容を見ると、どうやら、今日は自主練習に表狐さんが行けないらしく、とてもユユカさんが暇しているようだ。俺はユユカさんのチャットを見ながら、この前言われたことを思い出した。暇なら連絡してきてって言ってたよな。今日ユユカさん暇って言っていたし、今日食事にでも誘ってみようか。いや、でもそれで気持ち悪いと思われたら嫌だな。そんな葛藤を五分近くしていたが、しばらくして決心した俺は、思い切って連絡してみることにした。
「こんにちは、ユユカさん。いきなりですみません。もし、ユユカさんはお暇なら今日の夕方どこかに食べに行きませんか」
送ってしまった。そこまで時間がたたずにすぐに既読がついて、返信が返ってきた。
『こんにちは~。ええ、もちろん大丈夫よ。じゃあ、集合場所はどこにする?』
『船橋駅で良いですか? 場所は、分かりやすい、さざんがきゅーちゃんの石像の前とかどうですか』
さざんがきゅーちゃんは待ち合わせでよく使われる船橋の有名待ち合わせスポットだ。そこならおそらく近くに住んでいるユユカさんも、すぐに分かるだろうし、俺もよくそこは友達との待ち合わせスポットに利用した場所だ。
『それでいいわよ。船橋のさざんがきゅーちゃんの石像ね。了解。ではまた今日の夕方ね』
そういって、チャットは終わった。そういえば、今のうちに準備をしよう。どうせぎりぎりまで準備を後回しにすると、バタバタして何か忘れものをするのがオチだ。さすがにそんなみえみえの事はしない。そういえば何気に麻耶以外の女の人と遊ぶのってこれが初めてだな。麻耶は基本的に俺がどんな服を着ていようか気にしない。というか、服がダサいのはお互い様なので、文句は言わないがさすがに別の人はそういうわけにはいかない。おしゃれな服なんて持っていただろうか。こんなんだったら、しっかり服屋に行ったときに適当に買わないでしっかり選んでおくんだった。まあ、俺のセンスなんてたかがしれているだろうが。俺は部屋を開けっぱなしにしてしまいコーディネートをしているところを姉貴に見られてしまった。姉貴は俺を見るとにやにやと笑いながら言った。
「なーに。豪。女の子とデート。珍しくおしゃれなんてしちゃってさ
「ち、違うよ。学校の友達と遊んでくるんだよ」
ただ養成学校の友達と食事をしてくるだけだ。嘘は言っていない。俺が言い訳をしても姉貴はふーんとにやにやしてそのまま去っていってしまった。これはしばらくいじられるな。まったくめんどくさい。そんなことを思いながら準備を終わらせるのだった。
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