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1.養成学校のチラシ

年末まで毎日更新!!お願いいたします

     歌い手始めました

作者:神代ひまり(シェヴイ)



 時々昔のことを思い出す。俺は、小さいころは歌手になるのが夢だった。小学生の頃からずっと追っかけてきた夢で、親も音楽教室に習わさせてくれたり、音楽系の大学のオープンキャンパスに行かせてくれたりと全力で協力してくれた。しかし、才能がなかったのか、音楽大学には落ちて一浪。すると周りも一変。親にも高校の先生にも、もう諦めろと言われ、仕方なくあきらめざるを得なかった。そしてそんなことももういつの間にか忘れて大学生の夏。俺は運命の出会いをするのだった。


            



 大学近くの駅からの帰り道。俺の家は千葉県津田沼市にあり、大学は船橋市にある。大学近くの船橋駅周りは都内なため、人通りもかなり多く、大きいビルや店がいくつも建っている。大学が終わり、家に帰ろうと駅に向かった。駅の入り口でお姉さんがチラシの紙を渡しているのが見える。ピンク色の髪で身長は160cmあるかくらいの女の人だ。いつもの怪しい宗教の団体の勧誘かと思ったがそうではないようだ。彼女は俺に気づくと駆けてきて言う。


「歌い手養成学校の生徒を募集中です。もしよければ私たちと一緒に歌い手を目指しませんか」


 彼女は笑顔で俺にそう微笑みながら紙を渡すとまたほかの人に話しかけに行ってしまう。歌い手養成学校?歌手みたいなものだろうか。俺はその紙を鞄にしまうと電車に乗って家に帰るのだった。


「歌い手養成学校か」


 家に帰り、部屋に入り紙を見た。そこには今なら半額とかかれてあった。歌い手か。歌手になりたいと思った頃はあったな。今はもう懐かしい夢だけど。そんなことを思いながら横たわり紙を見ている。


「豪ーそろそろごはんよー」

 


 ノックもせずに姉貴が俺の部屋に入ってきた。俺は慌ててチラシを抱き自分のおなかの下に隠した。その一連の様子ははたから見たらただの不審者のほかならない。


「なーに。豪。エロ本でも見てたの」


 にやにやと馬鹿にした顔で姉貴がこちらを見ていた。


「う、うるせーよ! なんでノックしないんだよ!」

「ごめんごめん。ってか、早く来なさいよ。ご飯冷めちゃうから」


 間髪入れずに言って、部屋から出て行こうと背を向けた瞬間。隙ありと素早くこちらに走ってきて、俺の抱え持っていた紙を無理やりひったくった。あまりの出来事に俺は油断をしてしまっていた。


「歌い手……? 養成学校」


 ひったくった紙を見て姉貴は首をひねる。その紙と俺を交互に見て言った。


「何? 豪ってまだ歌手の夢を捨てきれていなかったの」

「違う。駅前で配っているのをたまたま貰ってきただけだよ。ただそれだけ」


 しかし、姉貴は紙を見ながら言う。


「でも、豪が浪人する前に、私思ったのよね。本当にそれでいいのかって。だって小学生の頃から憧れて追っかけてきた夢じゃん。それを周りにどうこう言われてあっさり諦めちゃうなんて」


 私にはどうでもいいけどね、と手から離す紙はひらひらと舞ってゆっくりと地面に落ちて行った。


「まあ、まだ捨てきれない夢なら、体験でも行ってみればいいんじゃない。無理強いはしないけどさ」


 そういって部屋から出て行ってしまった。体験入学か。まあ、試しに行ってみようかな。そんなことを思いながら紙に書かれた番号に電話をかけてみる。ツーコールした後に、地を這うような低い声の男の人が電話に出た。


「はい。こちら歌い手養成学校。シンガーミクス学校です」

「すみません。この学校の紙を見て体験入学してみたいと思った、秋月というものですが」


 俺がそう言うと、その男の人は嬉しそうな声色に変わって言った。


「そうですか。そうですか。私はこの学校の校長です。この学校に興味を持ってくれたということですね? ありがとうございます。では早速ですが今週の土曜日とかいかがですかな? ちょうどその日は講習の日なんです」



 そう校長と名乗る人物は言う。俺はちょうど予定も無かった為、その日にすることに決めた。電話を切って寝転がる。何度見ても変わりはしないのに何度も募集の紙を見ていた。それを見ているとついつい顔がにやけてしまう。もしかしたら俺、久々にワクワクしているのかもしれないな。期待に胸をときめかせて就寝するのだった。


 土曜日になった。その日は大学だったため、大学の帰りにシンガーミクス養成学校に立ち寄ることにした。校長にもその旨をすでに伝えてある。その養成学校は船橋駅の近くにあるため、大学の帰り、向かう事が出来る。講義は午前中で、終わりなため適当に腹を満たしたら養成学校に行こうと考えながら学食で昼食を食べていた。すると、横からいつも聞いている声がする。


「よっしーご飯を一緒に食べよう」


 話しかけてきたのは幼なじみの東海林麻耶とうかいりんまやだった。幼稚園からずっと一緒の学校で、腐れ縁。本当は大学は別々の所に進学する予定だったのだが麻耶が


「よっしーを一人にさせると不安だよ」


 と進路先まで変えて、学科こそは違うもののわざわざ大学まで一緒にしてきた筋金入りのおせっかいやきである。そんなもうガキじゃないんだからそこまで心配することは無いのにというのだが、彼女は好きでやっているとニコニコした顔で言うのだった。とんでもない世話焼きである。


「ねえ、午後の講義あるの?」 

「今日はもう講義はないよ。これ食ったら帰るところだ」

「じゃあ、久しぶりに一緒に帰らない?私もこれで講習終わりで、今日は珍しく部活もサークルもないんだ」


 ニコニコして麻耶は言った。麻耶は部活はバスケ。サークルはバレーとなんと運動系の活動を掛け持ちしている。麻耶いわくサークルはエンジョイしてやるもので、部活は本気でやるものだから似たようで全く違うようだ。帰宅部の俺からすればどっちも掛け持ちするなんてよほど動くのが好きなんだなと思う。ああ、そういえば小学生の頃からそうだったな。よく男子と混ざって休み時間にサッカーとかしてたっけ。



「ああ、悪い。今日これから予定があって。行かなければならない場所があるんだ」

「え、よっしーに予定!? ありえない。明日は雨かな」


 こいつ。人を何だと思っているんだ?俺にだって予定の一つや二つくらいあるわ。


「お前なあ。じゃあ、明日は傘でも持ち歩け。というわけで今日は帰れないから友達とでも帰ってくれ」


 俺がそういって食べた食事の空を片付けて大学を出た。地図を見て学校に行くと駅から徒歩十分の小さいビルにたどり着いた。本当にそこでやっているか疑わしくなるのだがビルに入ってすぐの案内地図に『二階。シンガーミクス養成学校』と書かれてあった。どうやら別の階は別の違う業者が使っているらしい。階段を上がると目の前に扉があり、シンガーミクス養成学校と書かれてあった。俺は深呼吸をしてゆっくりと扉を開けた。


明日更新

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