第8章 神父の不安
「神父よ。儀式の後でさえ、こうして私に会いにくるとは勇敢なことだな。」
その少年の前に座ることは中央聖教会の司教達の前に召喚されることに似ていると、神父はふと思った。
以前に緊張のあまり食事が喉に通らなく、体調に異変をきたすことがあったからだ。
失敗に終わった儀式から大分傷は癒えていたが、心身に刻まれた傷は早々に消えるものではない様だ。
「私も準備不足であったと思い反省しています。今日は次回の儀式の予習のためにあなたに会いに来ました。」
「君の力もとても興味深かった。新任の神父とは思えぬ。」
「それはどうも。君は12歳とは思えない程いつも落ち着いていますね。」
すると少年は少しだけ不思議そうな顔をしてから、確信したように答えた。
「年齢とは成る程、大切な指標であろう。」
「あと数週間で中央聖教会の巡回修道士達がこの教会に到着します。彼らが着き次第、封印の儀式を再び執り行います。」
少年は静かに聞いていた。
「じ、実は記録には残っていますが、君からも直接今までの儀式で何が起こったのか聞いておこうと思いました。」
少年はどこか寂しそうな顔をすると、ゆっくりと話し出した。
「簡単に言うと失敗した。そして数日後に神父達は皆死んでしまった。僕は彼らが好きだった。とても残念だ。おそらく彼らの力では至らなかったのであろう。儀式の後、彼らは憔悴したように見えた。事実、僕は彼らが死んでしまった事をいつも後で聞かされるのだ。」
「そうですか。まるで封印の儀式が彼らの死の原因であるかのようですね。」
「だが君は戻ってきてくれた。」
少年はホッとした様に微笑んだ。神父は大人びた口調で話すその少年に少し違和感を感じた。その少年の中には確かに、12歳のまだ幼い少年が存在しているのではないだろうか。
「今までに仲の良かった神父はいたのですか?」
そう聞くと、少年の表情に少し輝きが戻ったように感じた。
「ああ、いたさ。私は彼らの名前を忘れはしない。」
「彼らの名前まで覚えているのですか? と言うか、神父は自分の名前を簡単に口外しないはずですが。言いにくいですが、特に君のような…」
少年は神父を遮って言った。
「ユーダリアスの子、ガブリエル。もちろんだとも。君の名前も覚えているさ。」
(僕の父親の名前まで!?)と神父は冷や汗が頬を伝っていることに気付いた。
「よく知る大天使の名をもらったのだな君は。美しい名だ。」
気を取り戻すと神父は続けた。
「お、驚きました。あなたに私の名前を教えた覚えはないのですが、どうやら物知りのお友達がこの教会にいるようですね。」
神父の言葉には答えず最後にその少年はこう答えた。
「ガブリエルとは、『神の人』と言う意味もある。面白いであろう。かの大天使は人が神の末裔であることを知らせたのだ。」
初めて後書きを書いてみました。今『槍の王』は第1部を書き終え、第2、3、4部のプロットを練りつつ、第1部は構成を加えながらゆっくりこちらにアップしていってます。実は今日、ブックーマークに登録してくださった方が1人いました!第1号です。嬉しいです!あまりにも嬉しくてスマホで写メをとって保存しました。笑。これからもどうぞよろしくお願いします。