第1章 封印の書
初めて小説を投稿します。
よろしくお願いします。
その世界では本は貴重なものだった。図書館などと言うものは限られた都会にしか点在せず、小さな町では行商で流れてくるキャラバンが数ヶ月に一度開く市場でしか買い求めることはできなかった。
その日、荒野にある小さな町の教会に仕える修道女のソフィアは、今度こそと言う思いを胸に市の立つ町の広場へと向かっていた。
道すがら砂埃がソフィアの伸び始めた髪に絡みつき、喉から水分を奪っていた。そして、ソフィアの気は焦るばかりだった。
今日こそ、あの本の行商は例の本を持っているかもしれない。もし今回入手することが出来なければ、隣の町まで旅する必要があるかもしれない。
長い旅路はどうしても避けたいソフィアは今回通るキャラバンを頼りにしていた。
その証拠にソフィアは、その本を購入するために豊かなブロンドの髪を切って売ることにしたのだ。教会からの援助金だけでは足りない可能性があったからだ。
市場に着くと早速ソフィアは束にした髪の毛を売却した。
「それにしても勿体無いねえ。あんたみたいな若くて綺麗な人が、こんなに美しい髪を切ってしまうなんて。」
その店の女将さんがそう言ってソフィアの容姿を褒めた。
「ありがとうございます。でもまた伸びますから。そうしたらまたどうかご贔屓に。」
「はっはっは。かーちゃん、それを言うなら尼さんにしとく方が勿体無いだろう!?」
店主が豪快に言ったが、後ろから奥さんの張り手が店主の後頭部に飛んだ。ソフィアは苦笑いをしながら丁寧にお辞儀をしてその場を小走りに去った。
そしていよいよ、本の行商のいる店まで向かった。
————
「やあ、また来たのかい。」
馴染みの本屋の行商が会釈をする。前回見たときよりも少し日焼けしたその顔にはまた新しい皺が刻まれているようだった。
「はい、今日も例の本を探しています。」
「あなたのために私も色々な街を探し回りました。その甲斐あって、数冊見つけました。」
そういって旅の行商は3冊の本を荷台の中から取り出した。
「他の人に買われないように、とっておいたのです。きっと今日もあなたが来ると思っていました。」
貴重な封印の書を3冊も入手することは大変困難であったであろうとソフィアは思った。
「どうもありがとう。おいくらでしょう。」
ソフィアはお金を渡すとその行商の手を取り再度お礼を言った。もしかしたら、この3冊の中についにその本があるかもしれない。旅の行商は少し頬を赤く染めるとまた軽く会釈をした。
「また探して持って参ります。しかしあなたも変わった人だ。こんな本、縁起のいいものではなさそうですが。」
「すぐに教会に持って帰ります。」
ソフィアは深々と頭を下げ、また早足で来た道を戻って行った。
ついに手に入れたその本は、悪魔に関する本だった。悪魔を封印するための本。俗にそれを封印の書と呼んだ。その世界では悪魔や妖精、あるいは他の超次元的な存在を本の中に封印する術があったのだ。と言ってもその封印の書は生産量も少なく、ましてや田舎の町に流通するのは稀であった。
教会への帰り道、ソフィアはやっと封印の書を手に入れることができたことへの安堵よりも、その本を使用して行う儀式への不安を感じ始めていた。
ソフィアには、どうしてもその本を手に入れなければならない理由があったのだ。
ある悪魔を封印するために。