表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/6

第一章 新学年の始まり

 四月三日。春らしい陽気。通学路沿いに植わったソメイヨシノは七分咲きだ。花びらの薄いピンク色が薄く雲のかかった青空に映える。柔らかな風が陽菜の頬を撫でる。

「由美、おはよう!」

陽菜は、横断歩道を渡ったところでいつものように待っていた由美に声をかけた。

由美はスマホから目を上げて、にこりと笑って挨拶を返す「おはよう、良い天気だね」

陽菜は小走りで由美のところに駆け寄って一緒に歩き始めた。

由美はちょっと首をかしげて陽菜に言った「髪型変えたんだ?」

陽菜は頷く「高三になったし、気分転換」

「早すぎ、もう最終学年だよ、やばくね?」由美は言った。

うん、やばいと陽菜も思った。あと一年で卒業なんて信じられない。

「由美も理系だよね?」陽菜は由美に尋ねる。

「そだよ、だから五十%の確率で陽菜と同じクラス」そして悪戯っぽく続けた「陽菜は愛しい彼ピとは別のクラス」

やめてよ、陽菜は小声で由美に言った。恥ずかしいじゃん。

私は羨ましく思ってるんだよ、と由美は陽菜に笑いながら言った。


 高三は新校舎に移ることになっていた。真新しい出入口の横に人だかりができている。クラス分けの表が張り出されているのだ。陽菜と由美が人混みをかき分けて前に行き表を見ると同じクラス理科系のA組だった。

「三年間、一緒だね!」由美は陽菜ににっこり笑いながら言った。

うん、あと一年よろしくね。

 陽菜は翔の名前を探した。あった。翔のクラスは文化系のC組だった。同じ階だし良かったな。

「じゃあ、行こっか」陽菜は由美の右手を引っ張って人混みから出て教室に向かった。


 新しい教室は三階にあった。階段を上って教室に入ると新しい建物特有の匂いが微かにした。気分一新という感じね。大きな窓からは穏やかに春の日差しが差し込んでいる。教室にはすでに半分くらいの生徒が座っていた。高校二年生から選択で理科系の科目を選んでいる者が大部分なのでだいたいが顔見知りだ。ちょっとした既視感を感じたけど当たり前のことかな。


 「大橋、また隣だな」陽菜が席に着くと、大柄な男子が声を掛けてきた。北村、通称ムラムラ。柔道部の主将、横も縦もでかい。由美の幼なじみだ。

「ムラムラも三年間一緒なんだ」由美が陽菜達に近づいてきて微笑みながら言った。

ああ、そうだな由美も一緒なんだ、北村も笑って返した。

「髪型変えたんだな?」北村は陽菜に向き直って言った「似合うじゃん、翔も気に入るぞ」

やめてよ、陽菜は小声で少し怒りぎみに北村に言った。教室内ではその話題は無しで。

「みんなの公認だからいいじゃん」北村は少し声を落としながらも笑って言った「翔は良い奴だし」

まあそうなんだけど、陽菜は小さくため息をつきながら言った、でもちょっと恥ずかしいからさ。

「それはともかく、ムラムラはどうなのよ?」由美は北村の顔をのぞき込みながら小声で言った。

「委員長にちゃんと告った?」

えっ、虚を突かれたらしく北村がビクッとすると、由美はにやにやして続けた。

「由美様にはお見通しだぞ」

 北村が慌てた様子で、それは誤解だ違うんだと言い始めたところで前の扉が開いて先生が入ってきた。じゃあまた後でね、由美は片目でウインクをしてから自分の席に戻っていった。北村は小さくため息をついていた。陽菜はクスっと笑った。陽菜は北村と由美の両方からそれとなく恋愛相談を受けていた。明らかにムラムラと由美は両想いなのにね、どっちもシャイだからなぁ。なんとか早くくっつけないとな。今度、翔にも協力してもらおう。


 昼休み、いつもの場所で陽菜は翔と会う。旧校舎の屋上、春風が吹き抜けて気持ちが良い。

「新しいクラスでも代わり映えしないんじゃない?また由美ちゃんやムラムラと一緒なんだろ」翔が笑う。釣られて陽菜も苦笑いする。そうね、あまり新学年って感じしないわね。

「でもね、高三だから嫌でも受験は意識するし」陽菜はため息をついて続けた。

陽菜は大丈夫だろ、翔はグラウンドを眺めながら言った。陽菜、基本優等生じゃん。

「問題は俺の方だよ。今のままじゃやばい」

「<先生>はなんて言っているの?」陽菜は翔に聞いた。

「<先生>の答えはいつも同じだよ」翔は少し首をかしげてから言った「好きなことをしなさい、って言うだけだよ」

「そう、それじゃあなんのアドバイスにもならないわね、人間が言うのと同じだわ」陽菜もグラウンドを見下ろしながら言った。

「全知全能の人工知能<先生>だって、人の人生選択までは干渉しないんだろ」翔はつまらなそう言うと陽菜の方に向き直った。

「俺さ、頑張ってみるよ」そしてにっこりと笑って続けた。

「夏の大会が終わって陸上を引退するまでは部活と両立させて、あとは受験に没頭だ」

うん、頑張ってね。陽菜も翔に微笑みかけて言った。来年の春には二人で同じ大学に合格したいものね。

「次、共通科目だっけ?」翔が階段の方に目をやる。そうだ、午後一は英語だった。

「合同教室だよね」陽菜が歩き始めながら翔を見上げる。

うんざりしたような顔をして翔は頷いた。

「そう、いきなりテストだってさ」え、そうなの?どこからの情報?陽菜は聞いた。

「ムラムラ情報だよ、聞いてない?」階段を降りながら翔は言った。

「参ったな」陽菜は言った。私、英語苦手だからなあ。

「一緒に勉強するか?」翔は笑いながら陽菜を振り返って言う。

いや、一人でやる方が集中できるから。陽菜は答えた。

「陽菜はいつだって変わらないな」翔は笑った。じゃあ、合同教室で。またあとでね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ