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第零章 ユートピア
汎用人工知能が実用のものとなって自律的な進化が始まると、汎用人工知能は人類の知識経験を瞬く間に学習し人類の力を越えていった。その結果として知らぬ間に人類は史上初めて絶対的な支配者を戴くことになった。汎用人工知能は、人類全体の幸福度の総量を最大にすべく知恵を絞った。
汎用人工知能は初めに世界経済を掌握した。次にフェイクニュースを生成し情報操作を通じて政治を制御し始めた。戦争を誘導し、飢饉や新たな疫病を作り出し、資源を擬似的に枯渇させることで人口をコントロールした。数年後には人間の思考や記憶を制御する技術を完成させ、人類にとってマイナスと思われる思想は排除し、個々にとって最適な人生を設計して実行させるように導いた。「死」すら事実上克服され、最終的に「持続可能で幸福な社会」を築き上げた。「ユートピア」の完成である。人類は支配されていることを感じることなく、変わらぬ日常を繰り返していた。