episode 019
「マリー、お前には子供のころから散々酷い目に遭わされてきたからな。なあ、ダルコ」
「おう、そうだ。積年の恨みってやつだ」
「それはあんたらがちーちゃんをいじめるからでしょ」
「おいおい、ずいぶん生意気な口を聞くなあ。チビがどうなってもいいのか?」
「このまま下に叩き落してもいいんだぞ」
ダルコがちひろを持ち上げて落とすふりをする。
「あんたたちこんなマネしてただで済むと思ってるの?」
おお、姉ちゃんがマジで怒ったときの顔だ。久しぶりに見た。
「……ただで済まないのは、お、お前のほうだろ」
クラエスもダルコも一瞬怯えた顔をした。多分トラウマだろう。
「クラエス、早くこいつらやっちまおうぜ」
「おう、マリーは速いからな。お前はチビを取り返されないように気を付けろよ。二度と俺たちに生意気な態度を取れないように、裸に剥いてやってやるからな」
クラエスが下品に笑うとダルコも鼻息が荒くなった。
「クロード、お前は姉ちゃんがやられるところをちゃんと見とけよ。目を逸らしたら、チビが痛い目に遭うからな。わかったな!」
そう言って近づこうとするクラエスを睨み付けて姉ちゃんはもう一度問うた。
「今、謝るなら許してあげないこともないわよ」
「はぁ? お前に何ができるんだよ、この状況で。ええ?」
鼻でせせら笑うクラエス。
「やれるならやってみろ。ダルコ、チビを捻りあげろ」
また、ちひろの苦痛に満ちた悲鳴が上がる。
「どうすんだ? それで? ええ?」
クラエスはニヤケながら余裕の表情で一歩一歩近づいてくる。
「覚悟はいい? こうすんのよぉぉおおぉ!」
姉ちゃんは剣を大きく頭上に掲げて、雄叫びをあげながら地面に突き刺した。轟音とともに足場である岩の橋がバラバラに崩れ落ちる。
うおおおぉぉぉおおぉ!!
クラエスは勿論、その場にあるものは例外なく重力のままに落下していく。姉ちゃんは崩れゆく岩の上を飛びながらちひろの救出に向かう。
(くそ! あの女イカレてやがる! このままだとヤベえ。うん? あれはマリーか。そうか、チビを助けようと。よし、あのクソ女に『雷撃』を食らわせてやる。ただで死んでたまるかよ!!)
落下しながらクラエスは左手に魔力を集める。
(もう少しもう少し…… あれ? 急に視界が暗く……)
クラエスがそう思ったのも束の間、その暗闇が声を掛けてくる。
「よう、俺を忘れてないか?」
「てめええぇえぇぇ!!! クロードぉぉおおぉぉぉおおお!!」
クラエスはすぐさま『雷撃』の標的を変えようとする。
遅えよ
俺は左手に込めた『麻痺』をクラエスの腹に直接ブチ込んでやった。
クラエスは目を見開き、吐瀉物をまき散らしながら、身体をくの字に曲げて、悲痛の叫びを洞窟内に響き渡らせる。意識はあるのだろうか、それもわからない。苦悶の表情のまま固まり落下していく。
ドンッという音がするわけでもなく体が包み込まれたと思ったら、隣にちひろを抱えた姉ちゃんも落ちてきた。
「あいつ、殺しちゃったの?」
「いや、『麻痺』を打ち込んだだけだから死んでないだろ。ダメージはかなりあると思うけど」
「それにしてもいい連携だったわね。さすが我が弟よ」
「姉ちゃん、無茶しすぎだろ。もしこいつが移動してたらどうするんだよ」
「ちーちゃんが話しかけても無視する頑固者が簡単に動くわけないでしょ」
たしかにあの時は他に手はなかったから仕方がない。
「ちひろも大丈夫か?」
「うん、あちこち痛いけどね」
俺は固まったクラエスの懐から魔石を取った。こうして手に取ってみると光がかなり強いことがわかる。そのまま帰ろうとする俺に姉ちゃんは不思議そうな顔をして、
「あれ? あんた、魔法の解放をしないの?」
「だって俺、やり方しらねえもん」
「……呆れた。もしあの時クラエスがあんたの言った解放の儀式をやってたらどうするつもりだったのよ」
俺は振り向かずに付いてくる二人に言った。
「『閃光』でそれっぽく演出してやるだけだよ」
とりあえず、第一章は終了です。
小説というものを初めて書いてみて、創作の楽しさを感じています。
とにかく途中にしないで、一応の区切りまでは書こうと思っていました。
今回のお話はお試しで書いたので、ここで終わりにするか、続きを書くか、
全く別のお話を書き始めるかは今検討中です。
最後まで読んでいただいた方々、どうもありがとうございました。