一体、何が始まるんです?
"#拡散希望
同級生が昨日から行方不明です。
身長155cmくらい、黒髪ストレートで右目の下に泣きぼくろがある18歳の女の子です。
Twitterでは最後に「新郷村に行く」とつぶやいていますが、居場所が分かりません。
見かけましたらどんな情報でも良いので連絡ください。よろしくお願いします。"
"#行方不明 #人探し
昨夜、妻が「新郷村に行く」と言って突然家を出たきり行方が分かりません。
身長160cmくらい、髪はボブの35歳の女性で、黒縁の眼鏡を掛けています。
見かけましたらこちらのアカウントまで連絡ください。よろしくお願い致します。
"
先輩の部屋で古文書を手にとった翌日から、Twitterに人探しのつぶやきが投稿されはじめた。
会社で、家で、学校で、病院で、人々は突然スイッチが入ったかのようにどこかを目指して動き始めた。
人々の共通点は、こうつぶやいていることだった。
「新郷村へ行く。」
◆
「あなた、封印を解いたわね!?」
2人きりの部室、スマホでテレビを見ていた先輩は叫んだ。
スマホには、青森県新郷村を目指す1000万人の群衆が映し出されていた。
「新郷村へ行く。」
そう言って突然ふらりと動き始める人達の存在が全国各地から報告され始めてから3日。
まずパンクしたのは交通機関だった。
全国の駅や空港、バスに青森県を目指す人々が溢れ、新幹線や特急、飛行機、高速バスは満席となり、各駅停車も満員状態となった。
メディアでは謎の混雑が発生していると報道され、識者も首をかしげた。
それでも収まりきらない人々は車で移動を初めた。
こちらもすぐに渋滞が発生し、東北自動車道は全く車が動かない状態になった。
当然ながら、まもなく一般道路もまともに通行できなくなった。
最後に人々が頼ったのは徒歩だった。
車が詰まった高速道路を、まるで何かに引き寄せられるかのように歩いて移動する光景がテレビに映し出されているのだった。
先輩に封印のことを聞かれ、私は一度とぼけることにした。
「えっ、何のことだか......」
「手、出して。」
先輩は私の手を取ると、あの呪文を唱えだした。
「ナニャドナサレテ ナニャドヤラ」
すると、私の右手に淡く六芒星が浮かんだ。
「……やっぱり。あなた、あの古文書を開いたわね。」
もう隠し通せない。そう察した私は正直に答えることにした。
「はい。実は先輩の部屋で古い本みたいなのを見つけて。それで、気づいたら右手に星が浮かんでたんです。」
「もう人々が動き出しちゃったから教えてあげるわ。うちの学校に伝わると言われる魔導書の正体は……あの古文書なのよ。秦さんもオカルト研究会なら知ってるでしょう。竹内文書のこと。」
「えっ、あのキリストが日本に来て青森で死んだとか、天皇がUFOに乗って世界を飛び回ってたとか、アトランティス大陸とかムー大陸とかが書かれているっていう、あの竹内文書ですか?でもあれは焼失しちゃったんじゃ……」
「そうよ。世の中に知られている竹内文書の内容は正しくなかったし、おまけに政府に回収された状態で空襲を受け、焼失してしまったの。でも実は、世に知られた竹内文書が、全体の一部に過ぎなかったってことは知ってる?焼失した竹内文書は、実は抜粋だったの。この学院に伝わる竹内文書こそが真の竹内文書……正統竹内文書なのよ。正統竹内文書に書かれているのは、古代ユダヤ人の知恵。そして秦さん、秦氏のことは知っているわよね?」
「は、はい。私の先祖、秦氏は渡来人の一族で、日本に当時の最先端技術を大陸からもたらしたと言われていて、秦野や太秦という地名にも残っていますけど……まさか?」
「そのまさかよ。秦氏は古代世界中に散らばったユダヤ10支族のうち、行方知れずになっている1支族がユーラシア大陸を経て日本にやってきたものなの。そして、彼らは天皇が乗る天の浮舟に代表されるテクノロジーを日本に与えた。でも、その技術は人々に悪用されて戦乱を引き起こし、ムー、アトランティスが滅びることになったの。それを見た彼らはテクノロジーを封印した。いつの日かその莫大なエネルギーを正しく使いこなせる人が現れることを夢見てね。そして戦前、封印を解く鍵となっていた竹内文書が悪用されることを恐れた竹内家は、この学院にそれを隠した。機が熟した時、ユダヤ人の末裔である少女がその封印を解けるようにね。素戔嗚尊を祀る神宮司家の私もユダヤ人の末裔。そして秦さん、あなたにも封印を解く力があるのよ。まさかこんな形で封印が解かれてしまうとはね……。」
「今青森に移動している人たちは何なんですか?」
「あの人たちもユダヤ人の末裔。ほとんどが血の薄い人たちだけどね。1000万人の末裔たちが新郷村の……キリストの墓に向かっているの。彼ら、彼女らが集結した時、あなたの体を媒介にした儀式が行われ、古代ユダヤの知恵が目覚める。その時に使われる呪文が、この地方に伝わる歌……ナニャドヤラなの。あれが覚醒してしまったら、アメリカ、ロシア、中国、各国が目を付けないはずはないわ。……もう、動き出しているかもしれないわね。」
私は思わず言った。
「一体、何が始まるんです?」
先輩は答えた。
「第三次世界大戦よ。」
―― 完
久しぶりに小説を書くということで、練習がてら僕が昔から好きな竹内文書ネタで一本書いてみました。
プロットを考えていた時、何故か浮かんだのはシュワちゃん映画のあのシーンでした笑 ということでラストはあの映画のオマージュになってます(実は映画字幕では「一体、」は付かないのですけどね)。
オカルト好きなら一度は聞いたことのある竹内文書。勿論偽書ですが、人々の「あったらいいな」を書いてくれている古史古伝は奇想天外かつ魅力的なストーリーの宝庫です。他にも色々な古史古伝があるので今後もネタにしていきたいと思っています。