酷い思い違い。
一週間で一話すら出来なかったとは。
色々な事があったのと、書いてた小説が途中で消えたとかが起きてしまい、遅刻しました。
すみません。
無表情で無口。感情すら容易には読めない美少女。プレイヤーとの親愛度の変化で、だんだんとデレが出始め、最終的にはデレッデレのデレ。
シナリオに絡むのは聖女のため全ヒロイン中一位であり、そのためかヒロインランキングでは、不動の一位をサービス開始当初から保ち続けた最カワなヒロインであった。
だがしかし、落とす難易度が異常に高く、なおかつアップデートパッチによって毎回選択肢が変更、イベント発生条件も変更される、という鬼畜仕様であったために、彼女の事を諦めた紳士の数は数知らず...
それがゲームの中でのシャル・ラズベットであった。
だが。今、真横の席で「おいしぃー!」なんて言いながら、お父さん特製のシチューを食べている美幼女が、あのクーデレヒロインのシャル・ラズベットだなんて...多分全プレイヤーが信じられない思う。
いや、可愛いから良いんだけどさ。むしろウェルカム!!!
さて、今の状況を説明したいと思う。
突然の頭痛のせいで気絶してしまった僕に対し、シャルは心配と驚きで大泣きしたらしい。家中に響くレベルの泣き声付きで。
僕と同い年っていうのは目が覚めてから聞いた事だけど、3歳の子供の前で突然倒れたらそりゃ泣くわ。
その時リビングでくつろいでいたお母さんと、キッチンでシチューを作っていたお父さんは、あわや僕がシャルちゃんに何かしでかしたんじゃないかって、僕の部屋に飛び込んだら、ぶっ倒れてる僕に覆いかぶさって泣いてるシャルが居たそう。
それで、お父さんが僕に回復魔法かけてくれて目が覚めたと。
目が覚めた後も大変で、めちゃくちゃ涙目で可愛いすぎるシャルが、ひたすら引っ付いてきて離れなくなっちゃったり、ご飯を食べるために一旦、荷造りを中止してウチに来たシャルの両親にびっくりされたり、シャルの兄に「貴様に妹はやらん!!」なんて喧嘩吹っ掛けられたりで、もうさんざんだった。
そんでもって、今は夕食中なんだけど、やっぱ離れないシャルは僕の隣で、シチューをちいさなおててで器用にスプーンを使ってぱくぱく食べてる。
あ...ほっぺに着いた。
「シャル。こっち向いて」
「ん?」
「ここ。ついてる」
「ありあと!」
スプーンを咥えたまま、こっちへ向いたシャルのほっぺたに着いたシチューを、机の上に置いてあるナプキンで拭う。
にひっと笑って、僕にお礼を言ったら、すぐにパクパク食べ始めた。
あーほんとかわいいすきほっぺぷにぷにじゃんやわらかかった...はっ!!!触れる!?モニター越しじゃない!?
「こらクオ!なにぼーっとしてるのよ。あっ、なになに?シャルちゃんに見惚れちゃった??」
「うん。めっちゃ可愛い」
「「「えっ」」」
「あらあら」
「...えへへ」
「くっ、俺がやろうとしてたのに...!!!」
僕ら子供組とは、別のテーブルに座っているお母さんがこっちを向いて、茶化してきたが、限界化してる僕にまともな受け答えなんて出来るはずもなく、生返事で心のうちが漏れてしまった。
あーバリバリ睨んでくるよ、目の前の兄貴。
ちなみにこの兄貴の名前はアルトで、4歳年上の7歳。それなりに体は大きいけれど、鬼族とエルフ族のハーフである僕よりかは流石に大きくはなかった。正確にはわからないが、多分135〜140くらいだと思う。
うーん、どうしたものか。嫌われたくはないし、とりあえず好きなものでも聞いて和ませるか。
「ね。アルトってどんなこと好きなの?」
「ふん。なんでお前にそんな事...」
こんのクソガキどうしてくれよう。
「こらアルトー?仲良くしなさい!」
シャルたちのお母さんであるエルナさんが注意してくれた。だいぶありがたい。
「むぅ...剣だ。剣術には自信がある。鉄鷲も倒した事があるぞ」
ほぅ、鉄鷲か。
鉄鷲はその名のごとく、鉄のように硬い爪と嘴が特徴的な鷲で、とても素早く、空を飛び回るため、剣で倒すには少し手強い相手だ。
「おにーちゃんの剣はカッコいいんだよ!」
「ふ」
うーわ、ドヤ顔うざ!!どうだみたいな顔しやがって!
こうなったら...
「へー!凄いじゃん!あ、ちなみにね、このシチューに入ってる魔猪を倒したの僕なんだよねー!どう?美味しいー?」
ふっ。僕の勝ちだな。鉄鷲と魔猪だとワンランク差があるんだよ!!フハハ!!
「ええ!クオすごい!美味しいよ!」
「シャルありがと〜!...ふっ」
「ぐぬ...」
ふはは!悔しがってる!どうだ!
なんて思っていると、ゴチン!!
「こらクオ。魔猪を狩れたのは私が追いかけたからでしょー?そういうこと言っちゃダメよ」
お母さんにゲンコツをくらってしまった。
てか思い返すと恥ずかしい!!精神年齢20歳超えてんのに〜!!
「いて。はーい...ごめんアルト、張り合っちゃった」
僕から謝ると、アルトは面食らった顔をした。
「俺も..その、すまなかった。シャルのことになると熱くなってしまうんだ」
少し赤くなりつつ謝るアルト。
兄妹仲が良さそうでいいじゃんか。なるほどね、好きなものは剣と。
それなら、僕とも話しは合いそうでよかった、刀とはいえ剣とも通じるものがあるはずだ。
あ、そうだ。
「んね、アルト。明日暇だったら試合してみない?」
「...!ほんとか!父さん、明日って...」
「はは、荷造りは父さんに任せてお前達は遊んでていいぞ」
「やった!ありがと父さん!クオ!明日絶対やるぞ!」
お、おう。こんなに喜ぶとは思わなかったよ...まぁ、喜んで貰えるなら良かった。
これで仲良くなれるといいけどね!
なんて事を話していたら、シャルが僕たちを交互に見ながら、むーっとほっぺたを膨らましていた。
「えっと、どうしたの?シャル?」
「クオは私と本読むの!お兄ちゃんにはあげない!」
「やはり貴様ァ...!!!」
あーあ。コレどうするよ。
「あはは...じゃあ、明日はアルトと試合した後に3人で本でもよもっか!」
「むう...まぁそれなら、だが俺の前でシャルに変なことはさせないからな!」
このおませさんめ。こちとら3歳児だぞ。
「はいはい。そんな事しないから。」
「やった!みんなで本よむ!」
まぁそんなこんなで楽しい夕飯は終わったのでした。
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「それじゃ!また明日ね!」
「ふん!絶対試合やるからな!体調崩したりするんじゃないぞ!」
「ばいばいクオ!また明日ね!」
踏ん反り返ったアルトの横で、僕に向かってパタパタと手を振るシャルと、ばいばいをしていた。
「それじゃ、お世話になりました。シチュー、とっても美味しかったですわ。」
「世話になった、ウィルにルゥト嬢。」
「もうエルドさん!嬢呼びはやめてってば!」
「はは、懐かしくて良いじゃないか。」
シャル達のお父さんであるエルドさんと、どうやらうちの両親は面識があるようで、仲よさそうに話していた。
そして、去り際にエルドさんが一言、
「ウィル、あの話、すこし考えてみてくれ。私はクオくんなら任せられる。」
へ?僕の話?
「まだ時期尚早じゃないか。焦るような時期じゃないだろう?すこし様子見て考えないか?」
「まぁ、そうだな。それじゃ、今日はありがとう。また明日も、いやこれからよろしく頼む。クオくん、2人をよろしくお願いするよ。」
「はい!」
エルドさんはとても人の良い笑みを浮かべて、満足そうに帰って行った。
こうして、ラズベット一家は帰って行ったのだった。
<><><><><><><>
パタリと扉が閉まる。その瞬間、足から力が抜けてへたり込んでしまった。
「「クオ!?」」
先に、リビングの方へ歩いていた両親が駆け寄ってくる。
「大丈夫、少し寝れば治るよ。それじゃ、僕もう今日は疲れたから寝るね!おやすみ!」
「ちょ、クオ!?」
背後に両親の戸惑った声が聞こえたが、僕は逃げるように自室への階段を登った。
部屋に入ってすぐ、後ろ手で鍵を閉めた僕は、バタとベットに倒れて荒い息を吐いた。
だけど、我慢出来ない気分の悪さに、僕は部屋に備え付けてあるトイレへと、口を押さえて駆け込んだ。
トイレのふちに手をかけた瞬間、目が覚めてからずっと我慢し続けたモノが喉から溢れ出して止まらなかった。
消化しきれなかった朝食、狩の前の間食。さっき食べた夕飯。全部出し切っても、消えることのない気分の悪さに犯され、嗚咽が止まらない。
あぁ、なんで。シナリオだけなんかじゃない、忘れていた、全部!!!全部だ!!!重要なもの全て!!!
重要人物、攻略対象。そんなものどころじゃない。
アルトは、シャルは、なぜここに居る。幼少期の彼等に何があった。
このアルバの里は、ここは、お父さんは、お母さんは、里のみんなは────────────死ぬ、みんなみんな死ぬ。
そうだ、みんな目の前で死ぬ。だから───
「はは..?何だよそれ。そんなのしらねぇよ。目の前で死ぬ?どういう事だよ...何で、何で、」
何で、忘れてるんだ。
知らないことが口から出てくる。頭にはかけらも無いことが。
どうすれば、良いのだろう。
今週は書きます。
補足として。
アルトはプレイヤーが女性を選んだ場合の攻略対象であり、また聖女であるシャルのお付きの聖騎士として、シナリオに絡む回数はトップを飾るキャラです。
ただしこれでもスキルでいう〈主人公補正A〉程度となります。