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なのに僕は…
もう君に触れられない…
同じ場所で何時も立っているだけ…
何も変わらず、変えられず…
行き交う人々は、僕の事など気にもしない…
でも、毎年決まった日に僕の周りに知った顔が集まる。
賑やかになり、皆僕に話し掛けて来る。
中にはお酒を奨めてくる輩まで。
「一応、僕未成年なんですケド…」
それでも、一方的に奨めてくる友人…
賑やかな時は、あっという間に過ぎ去っていく。
そして、また一人ぼっち。
「隼人…」
その声に僕は振り向いた。
懐かしい声。
「…五年振り…だね」
忘れる事など出来る筈が無い声。
「琴美…」
抱きしめたいけど、グッと堪える。
「私ね…あの日からずっと考えてたの…」
彼女はグッと下唇を噛み、涙を堪えながら、淡々と喋る。
「あんなに…愛してた‥のに…結婚まで‥約束したのに…」
僕も唇を噛み締める。だけど、温かいものが頬を伝う。
「凄く苦しかった…いっぱい泣いて、いっぱい考えた…皆も私を励ましてくれたけど……もぉ‥疲れちゃった…」
堪えていた涙が溢れ出し、彼女の頬を濡らしていく。
「ひっく…やっぱり隼人がぁッ‥居ないなんて、えっぐ‥耐えられない…」
泣いてるけど、必死に堪えようとしている姿。
「ごめん…辛い思いをさせて…」
僕は琴美の背後に廻り、抱きしめる様にする。
「だから‥貴方の側に居たい…」
彼女は少し落ち着いた後、そう言った。
「今から…行くから…ちゃんと迎えに‥来て下さい…」
彼女はバックから小瓶を取り出すと、一気に飲み干した。
そして、僕に寄り添う様にもたれてきた。
そして、静かに眠りに就く。
「…琴美…」
僕の手に、彼女の温もりが宿る。
「…隼人ッ!」
目覚めた彼女は、僕に気付き、抱きしめてくる。
「辛かったろ…ごめんな……でも、もう心配無い…いつまでも一緒だよ」
懐かしい感触…
懐かしい温もり…
温かい光を受けながら、僕らは光の中へと飛び立った。
「只今入りましたニュースです。五年前、飲酒運転の車に跳ねられ死亡した、当時高校二年生の少年の命日である本日未明に、事故現場である××市××町の交差点で、21歳の女性が倒れているとの119番通報があり、現場に駆け付けた救急隊員により、既に死亡している事が確認されました。警察は、この件に関し…」
END
当時、ふと思い付いたお話。10年位前に書いた物ですが、何故思いついたかは不明。
物凄く短い短編で、物語と言うには余りにも端的な物で申し訳ありませんが、整理の為、こちらに掲載致しました。