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「隼人ぉ~、早く早くぅ~」
彼女が僕を呼ぶ。無邪気に微笑み、手招きをしながら。
「なぁ~、琴美。そろそろ休まないか?」
彼女の元にたどり着き、少々呆れた顔で言う。
「え~ッ!やだぁ~ッ!あッ!ねぇ、これ見て!」
ショーウインドウに飾られている色とりどりの装飾品の中から、シンプルな木の人形の置物を指差す。
二体の人形が頭をくつけて寄り添い、手を繋いでいる。
顔も無い人形で、鼻だけピノキオの様に細長い円柱の木が付いているだけ。
なのに、温かさを感じる。
「何かいいね。買おっか」
僕は言うが早いか、店の中へ入ると、それを頼む。
「店長さんの手作りだったんだって」
未だに目をキラキラさせてショーウインドウを覗く琴美。
「えッ?本当!凄いじゃん!」
こちらを向いて、大喜びする琴美。
こんな無邪気で無垢な琴美。
そんな彼女を愛している。
何度口付けを交わしても、身体を重ねても、足らない程に。
「僕が働ける様になったら結婚して下さい」
僕の口から結婚の話を聞いた彼女は、ぽろぽろと涙を流しながら頷いてくれた。
まだ安物の飾り気の無いリングしか買えなかったけど。
「こんなんだけど…婚約指輪…」
彼女の指に通す。そして、僕も自ら指に通し、口付けを交わした。