第9話 大どんでん返しの控え室(ドラマティックルーム)
「なにーーーーーーっ!?」
今度は〈俺〉が叫ぶ番だった。
控え室に戻った“〈俺〉と〈AIユニット〉”に、〈女先生〉から通信が入ったのだが……。
『陸軍上層部の介入があったみたいね。
さっきのニセ警備員が、直接は爆破予告に関係ないと……。
諜報部が結論づけた時点で』
「なるほどな。
そういうことか」
リハーサルで関係者しかいなかったのをいいことに……。
ほかに漏らすなと、箝口令を敷いたな。
『政府としても、ここである程度はケリをつけておきたいみたいね。
この件に関しては』
このままライブイベントを敢行したい主催者サイド……。
そして、軍部の利害が一致したか。
『GP00お手柄だったわね!
まだ、いけるかしら?』
「もちろんよ!
〈女先生〉。
こっちから志願したいぐらいだわ!!
ね?
〈隊長〉」
気が進まないようなことをいっておいて……。
なんだかんだで、いつの間にかヤル気になっている。
「すまない。
残念だが、〈俺〉は辞退させてもらうよ。
今日は月曜じゃなかったかい?
部屋でビールを飲みながら……。
夜のフットボール中継を観なきゃならないんだ」
「それは、ダメです!!」
『それは、ダメよ!!』
まあ、それは冗句として……。
〈女先生〉と〈AIユニット〉。
なんだか、息が合ってるなと思う。
「でも、〈隊長〉。
衣装どうしよう?」
「何か代えがあるだろう?
贅沢はいえん。
この際、ピッタリじゃなくても……」
「そりゃあ。
あるかもしれないよ。
でも……」
〈俺〉は、スタイリストの女性がいっていた言葉を思い出す。
「あの娘が新曲の舞台で着るハズだったの……」
「ちょっと待ってろ。
この場を動くんじゃないぞ!」
〈俺〉はメインステージに向かう。
そして、カメラマンか大道具がいないか探す。
いつもの装備ならば、背嚢に忍ばせているのだが……。
今日のスーツ姿には、含まれていないものを入手するためだ。
「忙しいところ、申し訳ないが……」
「少し分けてもらえないか」と、ちょうど通りかかった大道具に尋ねた。
すると、彼は「会場の備品だから」と……。
使い終わったら、控え室にそのまま置いておけばいいといってくれた。
「親切にありがとう」
〈俺〉は、彼に心から感謝した。
彼は、実はさっきのを見ていたと。
あなたと〈機械仕掛け〉のおかげで、ライブがはじまる前からおひらきにならずに済んでよかった。
自分もみんなも感謝しているといった。
箝口令のことが頭をよぎり、〈俺〉がモゴモゴしていると、彼は口元に人差し指を1本立ててニヤリと笑った。
そして、口だけ動かして「ナイショでしょ」といいウインクした。
〈俺〉は何もいわず、彼に右手を差し出した。
「〈機械仕掛け〉に応援してるっていって!
俺、ファンだからネ!!」
彼は軍手を右だけ外して、〈俺〉の手を握りながらいった。
〈俺〉はまた、さっきとはちがった意味で言葉に詰まる。
そして、また口は開かず右手の親指を立て、うなずいてみせた。
〈AIユニット〉に伝えなくては……。
最低でもふたりのファンが、今日の〈機械仕掛け〉のステージを楽しみにしていると。