第6話 隊長の大ファン(ザ・ファン)
ライブ当日、早めに来て、会場をひととおり見て回っている。
すると、インカムから〈AIユニット〉の声がした。
『こちら〈モルモット小隊00〉。
〈モルモット小隊01〉聞こえますか?』
「こちら〈モルモット小隊01〉」
『前に来たときは“顔パス”だったんだけど……。
さすがにもう、そういうワケにもいかないよね?』
「大人しくしていろ。
いまどこにいる?」
『関係者通用口の近く。
外套着て、仮面つき。
安心して』
その姿で行くしかないだろう、ということになったのだが。
それはそれで目立ちそうだな……。
でも、まあ、白衣よりはマシか。
そう思いながら、〈俺〉はいう。
「そこを動くな。
すぐ行く」
「了解、〈隊長《GP01》〉!
でも、めんどくさいのー」
周囲は派手で奇抜な格好をしている芸能人や芸能関係者が多い。
そのせいか、少し離れた場所にたたずんでいた〈二脚〉の〈AIユニット〉は、割と周囲に溶け込んでいた。
さすがに、チラチラと視線を送る者もなくはなかったが。
「よし行こう」
〈俺〉は、〈二脚〉の双眼に目配せしながらいう。
「了解、〈隊長〉!」
〈俺〉は、いま出てきたばかりの関係者通用口の前に立つ。
警備員に出演関係者用の入場許可証を見せながら、〈AIユニット〉も通そうとする。
「ちょっと待て!
キミ、入場許可証は!?」
どうやら、この警備員は会場側の人間らしい。
“我々の情報”を持っていないようだ。
「いや。
〈AIユニット〉には、入場許可証は必要ないハズだが……。
上長に問い合わせてみてくれないか?
“私”が我が社の大事なタレントを連れて来た、と」
〈俺〉は軍が特殊任務でよく使う、ダミー企業の名称が記載された名刺とIDをわたす。
肩書きは“技術研究開発営業部 統括主任”。
〈俺〉本人、いったいどんな技術を持ち、何を研究し、どんな開発し、いかほど販売して、何人のチームを率いているのかサッパリ解せないのだが……。
いちど、名刺をつくった誰かに聞いてみたいものだ。
けっきょく、〈俺〉は何をする部署の所属なんだ!?
「でも、とりあえず……。
仮面は取ってください。
そういうの困るんだよ」
警備員はスキャナにIDをかざして、〈俺〉の顔を見る。
怪訝そうな顔をしながらも、小型無線機で連絡を取りはじめた。
「ええ。
男性は問題なしです。
でも、事前に申請されていない仮面の“少女”がいっしょで。
それで『“彼女”には入場許可証はいらないハズだ』などと、妙なことをいってて……。
このままで?
はあ。
では、待ちます」
警備員は眉間にシワを寄せながら、面倒くさそうに腕時計をチラリと見ながらいった。
「アンタたち、ちょっと待ってて」
〈俺〉はうなずく。
せっかく、あと少しで交代の時間だったのに余計な仕事を増やしてしまったのかもしれない。
そのとき、小型無線機の呼び出し音が鳴った。
それに出た、警備員の口調が変わった。
「はい。
えっ!?
本社の?
本部長ですかっ!!
はい。
ええ。
まちがいありません。
男性の方は、入場許可証・IDを確認しております。
でも、“少女”は……。
えっ、少女じゃない?!
はい……。
はい。
解りました。
丁重にですね。
こ、心得ました。
無礼のないように……。
はい、必ず、はい。
失礼します」
片付いたようだな。
「もう、いいかな?」
「し、失礼しました。
その……。
中には、危険な人物もいるもので……。
先日も、油断するなと達しが……。
どうぞお通りください!」
警備員は〈俺〉に、IDを両手で返却しつつ……。
背筋・指先を伸ばし敬礼しそうな勢いでいった。
「でも、人間じゃないなんて……」
〈俺〉たちが通り過ぎた後、ぼそっとつぶやきながら〈二脚〉の身体を見つめている。
「おい?」
「はい?」
「何もしてないよな?」
「なんのこと?」
「おいおい……」
「警備員さんのうーんと上の方の上司……。
本社の本部長さんて、元陸軍《りくぐんOB》だったみたいよ。
きっと、〈隊長〉の大ファンだったんでしょ(笑)」
「カンベンしてくれ……」