第4話 基礎動作習熟訓練その2(レッスン・ツー)
今度は〈俺〉も〈AIユニット〉と同じ部屋へ入った。
〈女先生〉もいっしょだ。
「どんな具合?」
〈女先生〉が〈若手男性医師〉に尋ねる。
「どうもこうも。
〈AIユニット〉が《《自分で》》動かしたいというので……。
もう大変ですよ。
サポートシステムを使えば、《《思うだけで》》自由自在だっていうのに……」
「どういうことなの?」
「だってー」
「だって?」
「ちゃんと動かないんだもーん。
わたしが思ってるのと、ワンテンポもツーテンポも遅れるの……。
あり得ないでしょ?」」
「どうなの?」
「それは……。
まあ、事実でしょう。
サポートシステムは〈AIユニット〉の意思。
『前に歩く』なら『前に歩く』を受けてから。
最適な動作を選択し、命令を組み合わせて……。
身体を可動させます。
その処理には、ある程度の時間が必要だということです」
「でしょ。
やっぱり!」
勝ち誇ったように言葉を挟んだ〈AIユニット〉。
それを〈若手男性医師〉の声がさえぎった
「でも、ちょっと待ってください。
おそらく〈AIユニット〉がいっている……。
『ワンテンポ《《も》》ツーテンポ《《も》》』って。
10億分の1秒の世界ですよ。
〈AIユニット〉の感覚は、《《人間とは違うんですから》》」
「……」
〈AIユニット〉は、発声を止めた。
凍りついたかのように、微動だにしない。
〈俺〉は、〈若手男性医師〉の胸ぐらにつかみかかりそうになった。
〈若手男性医師〉言うに事欠いて、なんてことをいいやがる!!
そのとき、「どう思う?」というように……。
〈女先生〉が〈俺〉のほうをうかがっている。
それに気づき、グっと両の拳を握りしめた。
感情を抑え、なんとか踏み止まることに成功する。
「〈AIユニット〉に選ばせるべきだ。
実際に〈二脚〉の身体をあつかうのは〈AIユニット〉なんだからな」
〈若手男性医師〉は、「えっ!?」っという表情で〈俺〉を見た。
その視線からは、敵意が感じられる。
しかし、〈俺〉が目をそらさないでいると、目をそらしてしまった。
それは、納得とはほど遠い……。
強いて言えば、何かを諦めたかのように見えた。
「だけど、ですよ……。
サポートシステムなしで、〈二脚〉の身体を使いこなすのは至難の業ですよ?
〈四脚〉と違って、いろいろとバランスとか微妙だし……」
「どうなんだ?」
〈俺〉は沈黙を続ける、〈AIユニット〉に問うた?
「……いらない」
「はあ?」
「サポートシステムなんかいらない!」
「や、しかし、〈女先生〉?」
「サポートシステムのON / OFFを任意選択できるようにしましょう。
〈AIユニット〉が、自分で」
「サポートシステムのために、どれだけの開発期間と労力が……」
「使わないとはいってない。
選ぶのは〈AIユニット〉ということよ。
これでいいわね?」
「ええ。
ありがとう〈女先生〉。
〈隊長〉も、ありがとうございます!」
「サポートシステムなしで引っ繰り返ったりしても……。
僕は責任持てませんよ。
まったく」
〈若手男性医師〉は、文句を言いながらも、端末を操作する。
「こっちに来て」
そして、〈AIユニット〉の頭部ソケットに端子を接続した。
「無線でできないの?」
「有線の方が確実だし、早いんですよ。
まかせておいてください」
〈若手男性医師〉は、慣れた手付きで設定を変更する。
そして、ソケットに差した配線はそのままで……。
「よし。
メニューを出してみて。
そう……」
端末のモニタに、メニューらしきモノが表示された。
「これがいまの〈AIユニット〉の視覚情報。
頭の中にHUD(ヘッドアップディスプレイ)があるようなものよ。
『思う』だけで、メニューが呼び出せる」
「スゴイもんだな!」
「ええ。
〈AIユニット〉が失ったモノはあまりにも大きかったけど。
その代わりに、あたしたちは、〈AIユニット〉に考え得る限りの能力を与えた……」
「そう。
そのメニューのそこで……。
サポートシステムをON / OFFできるよ」
その後は、まあ、想像とおりというか、想像以上というべきか大変ではあった。
天井から吊された転倒防止の安全索がなければ、本当に何度も引っ繰り返っていただろう。
〈AIユニット〉は何度も蹈鞴を踏み、ぎこちない歩みを繰り返した。
でも、その場にそれを笑う者は誰ひとりいなかった。
〈俺〉には意外だったが、〈若手男性医師〉もあれ以上、何も反論しなかった。
辛辣な言葉を吐くでもなく、自分の仕事に没頭していた。




