第16話 そして、また、訓練(リピートレッスン)
「〈隊長(ちーふ~)〉」
「なんだ?」
「なんか、さー。
わたしたち、訓練ばっかしてなーい~?」
「それがどうした?
軍人の職務のウチだろ」
「わたしー。
ぐんじんじゃないし~。
ってゆーか、ゆーしゅーな〈機械仕掛け〉のわたしには……。
クン・レン・ナン・テ・ヒツ・ヨウ・アリ・マ・セン!」
「都合のワルいときだけ機械になるな!
あと、そのワザとらしい電子合成音声もやめろ!!」
「えー。
いまぐらい、いーじゃん~。
ここには、〈隊長〉とわ、た、し……。
ふたりっきりな、ん、だ、か、ら(は~と)」
〈AIユニット〉は、双眼でウインクしてみせる。
〈俺〉は、最近、スゴイ自然な表情・仕草になっているな、とか。
〈四脚〉の単眼じゃウインクできないから……。
気持ちは解らないでもないな、などと思う。
だが、いまは訓練中だ!
「だから、その甘ったるい声も……」
「な~に?
〈隊長〉(は~と)」
〈AIユニット〉は口元に両の拳をあてて、首を傾げて見せた。
ワザとやっている!
いつもの〈AIユニット〉は、絶対にこてこての前世代のアイドルみたいな仕草はしない!!
なにより、そんなキャラじゃないだろ?
“生身”だったときだって。
「あー、もー、いい。
訓練を続けるぞ!」」
「あ!
ちょっと待って、〈隊長〉」
「いや。
待てない!」
「〈元カレ〉を見送らせてほしいの。
イイでしょ?
ちょっとだけ……。
終了後、可及的速やかに訓練に戻ります、ので!」
そうか、今日の便だったな。
〈俺〉は黙ってうなずく。
晴れわたる空。
心地よい風。
女性型二足歩行ロボットの愛らしい姿。
〈俺〉はいっしゅん……。
ここがどこだか解らなくなる。
訓練中だったな。
そういえば。
「OK! 〈隊長〉お待たせ。
もう、大丈夫。
これからは、半径100メートル以内の監視カメラを勝手に使ったりしない。
もう、〈元カレ〉を不法監視したりしないから(笑)。
だって、〈モルモット小隊〉には“任務”がある。
でしょ?
ね?」
「いままで、そんなことをしてたのか?」
「だってー」
「だってじゃない!」
『〈モルモット小隊〉、聞こえますか?』
そのとき、耳の超小型通信機から〈女先生〉の声が響いた。
「こちら〈モルモット小隊〉」
『出撃要請よ。
すぐ戻って来られる?』
「どうだ?」
すっかり切り替えた、〈AIユニット〉の冷静な声がした。
「付近の道路状況を勘案。
予想到着時間……。
58.874328654289……」
「……」
「じゃなくってー。
えーっと。
60分弱といったところです」
「だそうだ。
緊急なのか?」
『ええ。
それも、ご指名なの』
「それなら、ヘリコプターを寄越してくれ」
『すぐ手配します』
後方で、〈女先生〉が〈若手男性医師〉と何か話す声がする。
『回転翼機に〈四脚〉と装備は積んでおきます。
そのまま、現場へ飛んでください』
「〈研究所〉には戻らず、直行するんだな?」
『ええ。
そうよ。
それから……。
ライブの出演依頼が来てるわよ』
「えっ!?
でもっ。
そんなのって……」
〈AIユニット〉の双眼が〈俺〉を見た。
〈俺〉はうなずいてやる。
「いいのっ?
怒られたばっかだし……」
『〈所長〉が“広報活動も大事”ですって。
それに“金食い虫なんだから働け!”ですって。
珍しくご機嫌だったわよ。
よっぽど、お支払いがよかったんじゃないかしら(笑)』
「えー。
何それ~。
〈隊長(ち~ふ~)〉。
コレってさ~ぁ。
すなおに喜んでいーの~?」
〈俺〉は、ヘリコプターの着陸地点を探す。
そして、簡易発着場のありそうな高層ビルのほうへ歩きはじめる。
〈AIユニット〉も〈俺〉の意図に気づく。
そして、ビルを走査しつつ……。
〈俺〉に追従して歩きはじめた。
「いいんじゃないか。
〈モルモット小隊01〉。
了解!」
「そーかな~?
〈モルモット小隊00〉。
了解っ!!」
「モルモット小隊の帰還」【完】




