第99話 過去との邂逅
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「お帰り、優都。随分と遅かったね。何かあった?」
「……いや、何でもないさ。ちょっと時間を忘れちゃってね。」
……嘘だ。鍛練だと言って神社を出てからもう既に二時間ほど経っている。もう辺りは一面闇色だ。
「……そう?なら良い。汗かいてる?お風呂に入った方が良いよ?」
「ん、そうさせてもらうよ。ありがとう、こころ。」
感謝の言葉に微笑みを返して、こころは居間へと消えてゆく。
異変は解決した。そう思っている。
けれど、何かが引っ掛かる。何故かすっきりしない。
「……とりあえず報告は一旦待って、明日は紅魔館に行くか。」
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翌日、紅魔館。
「あら、優都?うちに何か用かしら?それとも私に用かしら?」
「ん、今日はレミリアに用があるかな。少し真面目な話なんだけど、良いかな?」
紅魔館にやって来たのは、レミリアにあの異変のことを聞くためだ。
そう言うと、レミリアが顔を真っ赤にした。……なんだ?何か変なこと言ったかな?
「ま、真面目な話って……どういう話なの?」
真面目な話?真面目な……あぁ、そういうことか。これは言い方が悪かったな。
「そういう話じゃないんだ。あの異変について聞きたいことがあったんだよ。」
「え、あぁ……そうなの。」
何故かがっかりしたように項垂れるレミリア。
本当に何だ?今日のレミリアはよく分からないな。何かあったのか?
「そ、それでっ。聞きたいことって何なの?」
「あぁ、そうそう。あいつに乗っ取られた時に何か気になることとか無かったかな。」
今回は異変を『殺す』という形で解決してしまった。
けれど、これでは納得が出来ない。どういう理由でこんな異変を起こしたのか、辿っていけば分かるかもしれない。
「気になること、ねぇ。……そういえば、最近見ていなかった過去の夢を見たわ。」
レミリアが顔を歪める。よほど思い出したくない記憶だったのだろう。
その気持ちは、僕にだって分かる。思い出したくないことなんて、誰でも一つくらいあるものだ。
「そっか、過去の夢か……。」
「そう言えば、彼女の名前も聞いているわよ。確か──」
その名前を聞いた瞬間。僕は走り出していた。
向かうのは、昨日のあの場所。
「あ、ちょっと優都!?」
レミリアが何か叫ぶが、今の僕にその言葉を聞いている暇は無い。
どうして、何も言わなかったんだ。
どうして、そんなことにも気づけなかったんだ。
「……花梨、どうしてっ!」
山を駆け上がり、あの場所を目指す。『どうして』を考えている場合ではない。その答えは、彼女に会えさえすればすぐに分かる。
そうして辿り着いた、昨日のあの場所、山奥。
そこに立っていたのは──
「ん、来てくれたんだね。お久し振りかな、ゆうくん。」
「……あぁ。久しぶりだよ、花梨。」
『死んだはずの』少女だった。