第96話 彼に想いを
「あら、意外ね。いつもの霊夢なら『うるさい』って叫んで終わりだったわよね?」
アリスが目を瞬かせる。魔理沙も驚きの表情で私を見る。
「私は優都のことが好き。それは変わらないわ。でも、もっとこの気持ちを磨いて『本当に大切なこと』を伝える。私はそれまで、優都の傍で優都を見ている。」
「……そうか。霊夢がそれで良いのなら、私は止めないぜ。随分とキツく言って、悪かったぜ。」
真剣に話していたのが今頃になって恥ずかしくなったのか、顔を少し赤くする魔理沙。アリスは何も言わず、大人びた微笑みを浮かべている。
「誰かに優都の隣を譲る気は無い。でも、今の私にあいつの隣に居る資格は無いわ。だから、磨く。この気持ちを。」
今、決めた。彼の傍に居て、もっと彼を知ろう。彼のことを知って、もっと好きになろう。そうしていつか、その想いを伝えよう。
その時までは、どうか。
「少しでも、私を見てほしいわね。」
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「はっくし───んむ!?」
「……そんなベタなことはさせないよ?」
「ぼばべはなびをいっべぶんば?(お前は何を言ってるんだ?)」
くしゃみが出そうになったところでこころに口を塞がれた。あ、手で、ですよ。
「だべにいっべぶんばぼうば。(誰に言ってるんだろうな。)」
「……?何を言ってるのか全然分かんないよ?」
お前さんが手で口を塞いでるからね。そりゃまともに喋れないでしょうよ。
ようやく理解してくれたようで、口から手を放してくれた。
「……優都には、そんなベタなことはさせないよ?」
「だから何の話をしてるんだよお前は……」
「……『お前』だなんて。私達まだ結婚してないよ?『あなた』なんて呼べないよ?」
……ダメだ。この子、一つ二つくらい思考がぶっ飛んでるよ。このままじゃこころのペースに飲まれそうだ。
「とりあえずそれにはツッコまないからな?もうボケとかいいからそこで座っててくれ。」
「……え、ツッコむのはまだ時間的にも早───」
「はいこころちゃんちょっと黙ってようね。誰から教えてもらったその無駄な知識!」
「……独学?」
どうして疑問形なんだどうしてそんなことを勉強してるんだどこで使うんだぁぁぁ!
……ダメだ。一旦冷静になろう。これ以上こころのペースに飲まれてはいけない。深呼吸……
「……急に深呼吸なんてして、どうかしたの?はっ、もしかしてプロポーズ!?」
「そんなわけあるか!って、またツッコんでしまった……!」
「……優都、ツッコむにはまだ時間的にも早──」
「会話をループさせようとしないでくれるかな!?」
あぁ、もうダメだ。お手上げだよ。
この子のペースに一度飲まれたら抜け出すことなんて不可能だ。もう諦めよう。
無心、無心で刀に意識を集中させる。何か喋っているような気もするが、これも鍛練なんだ。