第95話 伝える勇気
「なら伝えなさいよ。どうせ返ってくる答えなんて変わらないわ。待ってるだけで答えが変わると思う?」
確かに、答えなんてイエスとノーしか存在しない。どんな言われ方をしようと、結局は受け入れられるか断られるかの二つ。
「霊夢は『イエス』の答えが欲しいんでしょう?それなら早く動くべきだと、私は思うわよ。他の子が先に彼を手に入れても良いなら、話は別だけどね。」
「……そんなの、良いわけないじゃない。」
良いわけがない。他の誰かに優都の隣を奪われるなんて、絶対に嫌だ。
でも、私には待ってることしか出来ない。私には、そんな勇気、無いのだから。
「……お前、『私にはそんな勇気無いから無理』とか思ってるだろ。」
魔理沙が私を見て言う。少し怒ったような不機嫌な表情で、魔理沙が私を睨んでいる。
「……だから何よ。そんな勇気、私が持ってるわけないでしょ?」
「勇気ってさ、何だよ?私もな、相手に想いを伝えるのは恥ずかしいと思ってたし、勇気が要るんだと思ってた。」
そう、そうだ。勇気は必要なんだ。
私にはそれが無い。優都に想いを伝えることで、これからの関係を壊してしまうかもしれないことが、たまらなく怖いのだ。
「でもな、違うんだぜ。勇気ってな、『本当に大切なこと』を伝える為に必要なんだ。」
魔理沙は、今まで見せたことの無いような、大人びた微笑みを浮かべていた。
私には、魔理沙が何を言っているのか、まだ分からない。
「その勇気が無いってことは、お前の想いは『本当に大切なこと』じゃないってことだ。お前の気持ちって、そんなに軽いのか?」
「──っ!!そんなわけ」
「無いって、言い切れるか?本当にそうか?お前が自分の口で言ったんだぜ、『そんな勇気持ってるわけない』って。」
言われて、気づく。自分の言った言葉、その意味に。
私は、自分の想いを否定したんだ。勇気が無いってことは、『私の想いはこの程度だ』と自分で言っているようなものだ。
「告白した後のことが怖いとか、関係が崩れそうで不安、とか。そんな風に思ってるのは、勇気が無いんじゃない。想いが弱いだけだ。そんな程度の想いで告白する資格なんて無い。」
「彼が軽い気持ちで貴女の告白を受けると思う?」
思わない。そんなはずがない。
優都は、そんな半端な気持ちで考える人じゃない。
じゃあ、私は何だ?
「気持ちを伝えるのが怖い?そんな気持ちで告白してフラれたって、私達は慰めてもやらないぜ。」
「あんな人を好きになっておいて、今さらそんなことで逃げるつもり?」
二人の責めるような口調。普段なら『うるさい』と叫んで逃げ出すものだが──
「魔理沙、アリス。」
「何だよ。私はまだ言い足りないぜ。だいたいお前の好きなんて──」
「ありがとう。それと、こんな半端な気持ちで相談なんかに来てごめんなさい。」