第93話 小さな我が儘
「……はぁ、まぁ良いわ。仲が良いのは分かったけど、人が居る前でイチャイチャするのは非常識だと分かってよね?」
「イチャイチャ……!!そ、そんなことしてない、よ!?優都と仲良く話してただけだよ!?」
顔を真っ赤にして慌てるこころ。
何をそんなに慌ててるんだよ、可愛いけど。
イチャイチャしてないのは事実なんだし、はっきりそう言わないと返って誤解されるぞ?
「はいはい、分かったわよ。私、今日は少し出掛けるから、留守はよろしくね?」
「ん、それは良いけど、何処に行くんだ?……あぁ、魔理沙のところか。」
霊夢は『そうよ』と言って頷く。
最近の霊夢はよく魔理沙とアリスに会いに行っている。理由はよく分からない。本人が話さないのだから、無理矢理聞くことでもないだろう。
「ラブラブなあんた達は、二人でゆっくりしてたら?」
「だ、だから。違うんだよっ!?優都のことは好きだけど、そういうことじゃないんだよ!?」
「はいはーい。ごゆっくりねー。」
必死なこころを無視して、霊夢は魔法の森の方へと飛んでいってしまった。
「……だいぶ、僕とそういう関係だと誤解されるのが嫌だったみたいだね?」
「……っ!?そんなわけ、ないけど……優都って、イジワル?」
それを僕に聞かれても。別に意地悪なことを言ったつもりはないんだけどなぁ。
「で、どうしようか。僕達にすること無いんだけど。こころが何も無いなら、僕は鍛練でもしてくるけど。」
そう言って僕が立ち上がると、こころに服の裾を掴んで止められた。顔は俯き、どんな顔をしているのかは見えない。その代わり、裾を掴む手にその想いが乗っていた。
「私も、行くよ?私は優都と一緒に居たい。だから、今だけでも傍に居させてほしいんだよ?」
「……今だけ、なんて言わなくて良いよ。こころが望むなら、ちゃんと傍に居るから。」
服の裾を掴む手が少し震えている。何を思って震えているのか、僕には分からない。
でも今、彼女は震えている。それだけ分かれば充分だ。
こころの頭へと手を伸ばし、柔らかい髪を優しく撫でる。
「こころが僕を望んでくれるなら……いや。望まなかったとしても、僕は君を、君達を必ず救うよ。……なんて、優柔不断なのかもしれないけど。」
「……そんなこと、ないよ?優都は強いから。貴方は、私だけを守る『騎士』で居たらダメな人。貴方には、皆を守る『英雄』で居てほしいよ?」
顔を上げて、『私の我が儘だけどね?』と付け加えて、笑う。
『英雄』か。なんとも僕には荷が重い呼び名だ。
けれど、皆を救えると言うのなら、『英雄』にでもなってやろう。
「僕では力不足かもしれないけど。僕の力の及ぶ限りは、君達を守ってみせる。」
「……うん。頑張ってね、『英雄』さん?私も近くで見守るよ?」