第90話 こころ大暴走
「傷つくことに慣れた……。その感じだと、よほどの過去を背負ってる?」
「……そんなものでもないさ。もう過ぎた過去のことだ。今更何かあるわけでもない。」
とは言うものの、過去に囚われていることに変わりはないか。
まぁ、今はそんなことどうでもいい。と、いうか。僕のことはどうでもいいな。
「優都、無理してる。ほんの少しだけど、苦しそうだったよ。」
「……そんな些細な変化まで分かるのか?って、これじゃあ無理してるって認めたようなものだな。」
「そうだね。……無理はしたらダメ。他の人にも言われたんじゃない?私だって、優都のことが心配、なんだよ?」
「いや、別に心配なんて───」
「心配、なんだよ?」
あ、はい。
なんか怖い。満面の笑みで有無を言わさぬ口調。逆らえるはずもない。
「……あぁ、分かったよ!無理なんてしない!心配もかけない!これで良い──わぷっ」
「優都、偉い。だから、ぎゅーしてあげるよ?気持ちいい?」
気持ち良くないと言えば嘘になる。というか気持ち良い。もうものすごく気持ち良い。
いきなり抱き締められたから変な声が出たが、そんなことは気にしない。
「……落ち着く。って、恥ずかしいだろ?顔真っ赤だぞ?」
「それは、気のせい。私は恥ずかしくなんてない。優都は目が悪い?」
「いや、顔赤いだろ。恥ずかしいなら無理しなくて良いぞ?」
そう言うと、こころはますます顔を赤くする。やがて耐えきれなくなったのか、拗ねたように顔を背けた。
「優都、意地悪っ。優都は私に甘えているだけで良い。」
「そうはいかないな。僕は甘えるよりも甘えさせたい人間なんだ。」
……うん、何を暴露してるんだろう、僕。
いや、うん。甘えさせるのが好きなのは事実だけど、別に今言わなくても良かったんじゃないかなぁ。
「ん、そう?じゃあ甘えても良い?私も実は、甘える方が好き……ではないけど、優都は特別。」
うん、それは言う必要なかったね。仕返し?仕返しなのかな?
まぁ、そんなこと言われて嬉しくないわけがないよな。反応に困るけどな……!
「良いよ。何でも来い。」
「じゃあ私を女にして。」
「ん、そんなので良いのか?それならさっさと……なんて言うわけないだろ!なんてことを言うんだお前は!?」
『女にする』って、その。
年頃の娘さんが軽々しく言っちゃダメなことだぞ?
意味分かって──るよな。絶対に分かった上で言ってるよな。
「優都、なんでもって言ったよ?私、まだ経験ないよ?新品だから大丈夫だよ?優都は特別なんだよ?」
「何も大丈夫じゃないですけど!?年頃の女の子がそういうこと言うんじゃありません!」
ってことはこころはし──やめよう。これ以上考えてはいけない。
「心臓に悪い冗談はやめてくれ……。そういうアレな方面の甘えるじゃなく!もう少し健全なやつでお願いして良いかな!」