第89話 優しき偽善者
どうも、魔理沙だぜ。
こころの可愛さで和む展開にしたかったみたいなんだが、見事にシリアス展開へ戻ったな。
ある意味才能なんだぜ。
「いや、いつまでも僕と一緒に居てもいいのか?」
こころだって元いた場所に帰る必要があるだろう。霊夢の許しが出て博麗神社に居るけど、こころにも元々住んでいた場所があるだろうに。
「そこは心配ない。ちゃんと許可は取ってきた。」
「……あの異変の後、すぐにここに来たよね。いつ許可を取ったのさ。」
「………昨日?」
何故に疑問形?絶対嘘だよね?許可取ってないよね?
好かれてるのは嬉しいけど、流石に許可は取るべきじゃないかなぁ。
「大丈夫。自由に動き回っても何も言われないから。むしろ、私達妖怪が動き回って何か言われることの方が稀。」
っと、そうか。
こころの見た目なら中学生、高校生ほど。親が居れば心配するだろうなぁ、と思ったが、それは外の世界での常識だ。
「うんまぁ、それなら良い、のかな?」
「良いの。家事は私がやるし、それなら何も文句はないはず。私はどうしても、優都と一緒にいたい。」
本当に、どうして僕はこの子にここまで好かれているんだろうか。
こんな愚かな人間に、好かれる要素などあったのか?
「……あのさ。僕の何処がそんなに好きなのさ。好かれる要素なんて、微塵もないように思えるんだけど?」
僕がそう問うと、こころはじっと僕の顔を見つめ、しばらくして寂しそうに笑う。
その表情が何を意味しているのか、僕にはよく分からない。
「……やっぱり、優都は昔の私と似てる。」
「昔のこころと……似てる?」
昔の僕は確かに無表情で、何をしても何をされても、何も感じないような人間だった。
だが、この世界にやって来た僕は、昔ほど酷いものでもないと思っているが……。
「優都は感情豊かで優しい人。でも、根本的なところが昔の私と似てる。自分のことを何も考えてない。」
こころが言ったそのことに、僕は何も言えないでいた。
事実だ、と思う。『自分を大事にしていない』、僕がよく他人から聞く僕の評価だ。
霊夢も、レミリアも。僕のことをそう評価している。
そして……花梨も。
『優都はね、私達のことになると徹底的に優しいくせに、自分のことになった途端、ひどく冷めた目をするんだよ。』
「これまで三日、見ていて分かった。優都は、誰かが傷ついたら自分の全てを懸けても守ろうとするくせに、自分が傷ついたら何も言わないんだ。……それはね、とても残酷なことなんだよ?」
そう言ったこころが、あの頃の花梨と重なった。
花梨と、同じことを言うんだな。たった数日で、人のことをよく見ている。
「残酷、と言われてもな。……あのな、こころ。誰かを救うには、誰かを守るには、必ず何かを犠牲にしなくちゃいけないんだ。」
「……だから、優都が犠牲になるの?どうして優都なの?どうしていつも、優都だけが犠牲になるの?どうして優都は、何も言わないの?」
……誰かが犠牲になる必要がある。それなら、自分が犠牲になろう。
その決断が出来る者が、一体どれほど居るのだろう。
誰かを救うために犠牲になるのは、単なる自己満足だ。
何か対価を得る為じゃない。
僕はヒーローじゃない。どこにでもいる、何も出来ない無力な人間で───
「傷つくなんてこと、もういつの間にか慣れてしまったよ。」
───ただの偽善者だ。
どうも、霊夢よ。
こころ、すごく贔屓されてるわね。
なんだか羨ましいわよ。私ももっと出番欲しい!
まぁ、私はこれからたっぷりあるんだけど。
次回までゆっくり待っていなさいよね!