第87話 過ち
「……人間如きが、随分と舐めた口を利いてくれるじゃない。」
殺気が強くなる。だが、強くなっても変わらず濁ったままだ。そんな殺気では、相手を怯ませることなんて不可能だ。
「その人間如きに二度も敗北を喫したのは誰だい?無様なものだね。」
僕はその殺気に嘲笑で返す。あんなにブレた殺気じゃ、威嚇にすらならない。
その上で、僕は顔に笑顔を張り付けたまま、鋭い殺気を放つ。
「────ッ!?」
「おや、どうしたんだい?まさか、『人間如き』の殺気に怯んだのかな?」
怯えたのか、『異変』が一歩後ずさる。相手を怯ませるのには、あんな濁った殺気ではなく、研ぎ澄まされた殺気を放つべきだ。これも、今までの戦いの中で言ったはずなんだがな。
「くっ……最初から全力でいかせてもらう。スペルカード発動!無惨『ハートレス・トラジェディー』」
「……この世界なら、良いかな。乗っ取られてる間の記憶もなくなるようだし。」
『異変』の周囲に現れる無数の黒い槍。流石に、全部捌くのは難しいか?
捌けないなら、消してしまえばいいのだろう?
「幻創『イマジネート・クリエイション』」
僕に向かって飛んでくる、無数の槍。
相手のスペルカードの効果が何なのか分からない今、あれをまともに受けるのは危険だ。だから僕は───
「──っ!?貴方、一体何をしたの?」
「何って、簡単なことだよ。まぁ、学習しない君に教える必要はないと思うけど?」
僕の周りには、白い球体が舞う。
ただ、『物質である』から消し去っただけ。僕に向けて物質を放ったところで、反物質を創造して消すだけだ。
「お前、もう少し相手の能力や弱点を理解してから戦いを挑めよ。そんなんじゃ、何をしたって勝てないぞ?」
「…………………」
『異変』は黙りこんでしまったようだ。反応がない。
と思ったが、突然肩を震わせる。笑っている、のか?
「くく、くくくく。人間の分際で、よく言えたものね。貴方、自分ではなく、『自分達』のことを考えたらどうなのかしら?」
自分達?何を言ってるんだ。霊夢達は結界の外に居て、何も問題は───
「まさか、貴様ッ!」
「あはははは!ようやく気づいたかしら!私がこれまでの二回の戦闘で何も学んでいないほど愚かだと思った?」
何を、何をしているんだ僕はッッ!!
『相手の能力や弱点を理解してから戦いを挑めよ。』だと?相手を侮って霊夢達を結界の外に待たせ、まんまと相手の策に嵌まった愚か者は、どこの誰だ?
いつの間にか結界に穴を開けられ、『異変』には逃げられたようだ。
霊夢達に何をしたのかは知らないが、今は奴を追っている場合ではない。
僕は結界を解除し、霊夢達のもとへと戻る。
そこで目にしたのは───
「………優都!どう、終わったの?」
「貴方がこころを抱えているということは、少なくとも撃退は出来たのね。」
「お兄様、大丈夫なの?」