第74話 人と変わらない
どうも、魔理沙だぜ。
本当にシリアス展開が続いてるな。
異変が解決すればまた、コメディ展開があるんだぜ。だいぶ先になるけどな。
……シリアスばっかりだけど、見てて面白いのか?
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『ロスト・エデン』閉界。
無限に広がる暗闇が崩れ落ち、一筋の光が差し込む。
光は少しずつ強くなり、僕の世界を照らした。
空を覆っていた緑色の瘴気は、もともと存在しなかったとでも言うように消え失せ、雲一つない晴天が広がっている。
眩しい日差しに目を細め、周囲を確認する。
「……うん、誰も居ないな。」
ミカヅチにはあぁ言われたが、正直まだ少し怖かった。
もし、レミリアに怯えられて、誰も近寄らなくなってしまったら。
そう思うと、どうしても前を向いて歩く勇気が出なかった。
「……ははっ。逃げ続けてきた過去と今さら向き合うなんて、簡単に出来るわけないじゃないか。」
僕は、強くなんてない。
いつまでも逃げてばかりの僕が、強いはずがない。
過去に背を向けて歩いてきた僕は、いつまでも脆く弱い僕のままだ。
けれど────
時に、無理矢理にでもそれと向き合わなければいけないことがある。
誰も居ないと思っていた。
けれど、そこには居たのだ。
「優都………。」
正直に言えば、今は会いたくなかった。
会ってしまえば、嫌でも向き合うことになるから。
過去から目を背けられなくなるから。
「……どうして、まだここに居たんだよ。」
どんなに取り繕っても、どうしても怖い。
また、怯えられたくない。もう一人になるのは嫌だ。
臆病な自分が顔を出して、どうしても前を向けない。
「……優都に、聞きたいことがあるの。良いかしら。」
レミリアは、真剣に僕の目を見て言う。
怯えて逃げられるよりはマシだ。何も言わず離れていくことに比べれば、よほど良い。
「貴方はどうして、私達のことを『化け物』だと言わなかったの?人じゃないことは、知っていたのでしょう?」
どんなことかと身構えていたが、予想外の質問だったから目を瞬かせる。
「……どうしてって、話し方も考え方も、笑ったり泣いたりするのも、どれも人間そっくりじゃないか。外見が少し違うだけ。君達は、人間と何も変わらないよ。」
偽りのない、僕の本心。
何故今それを聞かれたのか、理由は分からないけれど、これが僕の考え方だ。
妖怪だろうが何だろうが、話し方も考え方も感情の起伏も、彼女らは人間と何も変わらない。
僕からすれば、『人間より長く生きている』だけなのだ。
僕の本心を聞いたレミリアは、顔を伏せて黙っている。
その表情は見えない。
僕の本心を聞いてどう思うのか。
『狂っている』と蔑むのか?それとも、『間違っている』と否定するのか?
答えは、どちらも違っていた。
唐突に訪れる、確かな感触。
レミリアに抱きつかれたのだと気づいたのは、少し経ってからだった。
「ごめ……ごめんなさいっ。貴女が過去の私にあまりにも似ていてっ。あの頃の自分を見ているみたいで嫌で!自分もあんな表情で人を殺していたのかと思ったら怖くて!」
嗚咽混じりの声。
止めどなく流れていく涙が、彼女の頬を濡らす。
そう、そうか。
レミリアも、過去の記憶に囚われて苦しんでいたんだ。
……僕と、同じなんだ。
どうも、霊夢よ。
『人間』と『人外』。
そして、同じ『過去に囚われた者』。
二人とも、苦しんでいたのね。
でも、過去に囚われて苦しんでいるのは、この二人だけじゃない。
それはそのうち分かるわ。
次回までゆっくり待っていなさいよね!