第71話 愚かな者
「な──にをするのよ、スキマ妖怪!」
「うるさいわよカリスマ(笑)吸血鬼。そんなんだから馬鹿にされるのよ貴女。」
紫は私を見下ろして嘲るように笑う。
「この私に向かって、よくもそんなことを言ったわね……」
「そんな腑抜けた面で、よくもまぁそんな口が利けたものね。文句が言いたいなら顔を洗って出直してきたらどうかしら?」
少し、紫の視線が鋭くなる。先ほどの馬鹿にしたような笑みではなく、真剣な表情に変わる。
「……言いたい文句があるのは貴女の方でしょう?何が言いたいのかしら?」
「分かってるじゃない。なら、遠慮なく──貴女、最低よ?話を聞いてる限り、悪いのは全面的にレミリア、貴女じゃない。」
紫が真面目な顔のままで続ける。その何もかも見透かしたような瞳が、私を射抜く。
「そんなことは、分かっているわよ!だからそう言ってるじゃない……。」
「……そう。なら、一つ聞かせてもらうわよ。」
一呼吸置いて、私の返事を待たずに紫が続ける。
「貴女、いつまでそうやって何も出来なくて座り込んだ『フリ』をりているの?」
「……『フリ』ですって?どうしてそう言うのかしら?」
そう返すと、紫はまた馬鹿にしたように笑って、優都が閉じ籠ってしまった結界を見つめる。
「カリスマ吸血鬼のレミリア・スカーレットは、自分が起こした面倒事は、自分で後始末出来るものだと思っていたのだけど?何もせずに座り込んでいるだなんて、呆れたものだわ。」
「────────ッ!?」
何故、そんなことにも気付かなかったのだろうか。
私が引き起こしたことだ。私が解決しなければならない。
そんなことは誰でも分かる。分かるはず、なのに。
どうして、私は何もしようとしなかった?
どうして、私は結界を壊そうと試みなかった?
出来ないと分かっていたから?
今の私が何を言っても無駄だから?
「貴女は、『こうなってしまっては、自分には何も出来ない』なんて決めつけて、逃げようとしてるだけ。」
その、通りだ。
そんなことは分かっていた。過去の自分に似ているが故に、彼と向き合う勇気が無い。
なぜならそれは、未だに逃げてばかりいる自分の過去と向き合うことと同じだから。
「……貴女が何を抱えて、今何を思っているのかは知らないわ。でも……彼は、人間なのよ?彼からすれば、私達の方が『化け物』。そんな彼が、私たちをそう呼ばなかった理由、貴女には分かるかしら?」
紫はまた真剣な表情に戻り、そう私に問う。
「……彼が、優しい人だから?」
「……これは私が言うべきことではないわね。貴女が直接、彼本人に聞いてみなさい。そして、彼の考えを知った上で、自分がどれだけ愚かだったか、考えてみると良いわ。」
そう言い残し、紫は神社の方へと飛んでいく。
今更だが、あのスキマ妖怪が誰かのことに干渉するのは、珍しいことだった。
「……霊夢に向かって、あんなに偉そうに言っていた私が、こんなことに、ね。本当に最低ね、私。」