第63話 対の剣士
──────────
剣、か。
僕が剣を学び始めたのはいつだっただろう。
毎日血反吐を吐くまで剣を振り続けたのはいつからだったろう。
楽しさよりも強さに固執するようになったのは、一体いつからだったんだろうか。
「………ははは。もう、忘れるくらいに昔からか。」
……本当は、覚えているのだ。あれは、両親が死んだ頃だったか。
ただ、あの無惨な光景を思い出したくないだけだ。
「あぁ。弱いものだな、僕も。」
今更、か。そんなことは言うまでもなく知っている。
過去の記憶に囚われて抜け出せない、ただの臆病者だ。
少し気を紛らわすために、適当に木を探す。
「……幻創『イマジネート・クリエイション』」
何の変哲もない剣を創造し、上段に構える。
「第六刀技『獄鎖』」
一本だけ立っていた木に、四方八方から逃げ場のない斬撃を飛ばす。
木は容易く崩れ落ちる。
それと同時に、剣が根元から折れ、地面に剣身が突き刺さる。
鍔から先がなくなった剣を投げ捨て、新たな剣を創造する。
……あの頃と、同じだ。
あの頃は、家にあった木刀を持って、一日で何本も折ってきて。僕自身は、家に帰ったら疲労と貧血で動けない。
そんなことの繰り返しだった。
「……こっちに来てからが、甘すぎたんだ。もう一度、しっかりと頭に叩き込む必要がありそうだな。」
考えが甘すぎた。僕がこんな日常を過ごしていいはずがない。
僕は、あの時───
──────────(view side Youmu)
「優都、強かったな………」
優都から剣の教えを受けた後、私は白玉楼の庭で剣を振っていた。
私の動きは、全部頭で考えてから動くもの。だから、どうしても行動の方が遅れてしまう。
でも、優都は違う。予想していなかったであろう不意打ちすら全て避けられてしまう。
あの反応速度は、頭で考えてから動いたものじゃない。
まるで未来を予測していたかのような動き。
おそらくは、彼の能力が関係しているのだろう。
「そういえば、優都の能力を聞くの忘れてたな。」
剣を振りながら考える。
相手の行動を予知……。となると、考えられるのは──
「あら、妖夢?こんな時間から剣の稽古かしら?」
「ゆ、幽々子様っ!?」
白玉楼の主、西行寺幽々子。
『死を操る程度の能力』の持ち主である。
「す、すいません!すぐに朝食を用意して───」
「ふふっ。いいわよ。もう少し稽古していなさいな。」
「ゆ、幽々子様?どこかお身体の具合でも悪いのですか?」
幽々子様は常識はずれの食いしん坊で、私を呼びに来る時の用件のほとんどが食事の用意なのだ。
その幽々子様が『食事の用意は後でいい』なんて。
「……今の一言で、貴方が私のことをどんな風に見ているかよく分かるわ。」
「あぁ!ご、ごめんなさい!そんなつもりではなく!」
そう言って慌てて私が頭を下げると、突然幽々子様が笑いだした。