第62話 歪な狂気
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「─────ハァッッッ!」
妖夢が地を駆ける。一瞬でこちらの懐へと潜り込み、そのまま斬撃を───
「甘いな、動きが単調だ。」
放つなんてこと、僕が許すわけがない。
妖夢の渾身の一撃を『陽炎』の刀身が受け止め、流す。
妖夢は跳躍し、僕から距離をとる。
「……ほんと、流石です。技を使うこともなくこの強さなんて。」
妖夢が肩で息をしながら言う。
今しているのは、『技を使わずに勝負する』、単純な実力勝負。
単純な剣の扱いなら、彼女に負けることはない。
「………ふぅ。今日はこんなもので良いかな?」
「はぁ、はぁ。な、なんで優都は息が上がってないの?」
きっちり一時間。一時間稽古をした。あれだけ動き回っていたから、妖夢は息が上がっている。
「どうして、か。……妖夢。次は本気で来い。その理由を教えてやる。」
「……ふふっ。次は、絶対に一太刀浴びせてみせるッッ!」
──────────(view side Remilia)
「霜月、花梨?……聞いたことのない名ね。」
少なくとも、妖怪の名前としては聞いたことがない。
となると、人間………?
「あぁ、ゆうくん話してなかったんだ?寂しいなぁ、彼だけこっちに来ちゃうんだもん。」
こっちに来る?その言葉が意味するのは───
「外の人間、なの?」
「ふふふ、ご名答♪私は、この世界にいる優都と、同じ世界から来た人間だよ?多分。」
相変わらず不気味な笑顔を浮かべる花梨。
この女は危険だ。私の本能がそう告げている。
何を考えているのか読めない。
「……さっきの言葉、どういう意味?」
「ん?そのままだよ。面白いものを持ってるのね、貴女。」
その『面白いもの』が何なのかと聞いているのに。
「なかなか興味深いものねぇ、その『過去』」
「───ッ!?……言いなさい、お前本当は何者?」
今の一瞬、花梨から膨大なエネルギーを感じた。
あれは人間が持てるエネルギー量の限界を遥かに越えている。
つまり、こいつは────
「あらら、またバレちゃった♪そうだよ、私ってば人間じゃあないの。」
「神槍『スピア・ザ・グングニル』」
人間ではないもの。更に、この紅魔館の結界を破って入ってこれるほどの化け物。
こいつを生かしておくのは危ない。危なすぎる。
今ここで、始末しておかなければ。全力で槍を放つ。
槍は花梨の胸を貫き、胸に大きな穴を開ける。
完全に貫いた。これで危険の可能性はなくなった───
と、思えたのも一瞬だけだった。
「いたたた。酷いことするわね、吸血鬼。これは私も本気でいかないと。」
そこに見えたのは、姿形の歪な黒い塊。もはや先ほどまでの少女の面影はほとんど残っていない。
「さぁ、私の番を始めるよー!」