第59話 その地獄で
どうも、魔理沙だぜ。
今回はちょっとグロい描写が含まれているらしいぜ。
苦手な人は読まない方が良いかもしれないぜ。
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あの人の、姿が映る。
白く染まった世界に、たった一滴零れたインクのように遠くに佇む彼女は、僕の大切な、『大切だった』人で。
手を伸ばす。
あぁ、どうしたのだろう。
何故か、手が見つからないのだ。
あぁ、どうしたのだろう。
何故か、声が出ないんだ。
彼女が、背を向けて去っていく。
追いかける。追いかけようとしたって、足が無いのだから追いかけられるはずがない。
無力。感じたのは、 絶望的なまでの無力感だった。
椅子に縛り付けられて、延々と同じ映像を見させられる。今のこの状況は、それと似たようなものだろう。
突如、辺りの白が黒く染められる。
まるで『今日の上映はこれで終わりだ』とでも言うように、全てが黒く染め上げられて。
今度は、紅く染まるのだ。
続いて、急に明るくなった視界に映ったのは────
『地獄』だった。
何人もの人々。とても両手の指では足りないほどの人数。
一人は、腹部を鉄骨が貫き。
一人は、コンクリートが叩きつけられ、頭部が歪に凹み。
一人は、何百キロもあるであろう、建物の二階の崩落に巻き込まれて潰れ、腹から下がなくなっていた。
父親を見つけた。母親の手を握っている。
もう片方の腕が無い。そこから、致死量など軽く越えているであろうほどの血液が流れ出ていた。
………とうに、息絶えていた。
母親を見る。目には、光が宿っておらず、その身体を囲むように、夥しい量の血液が流れていた。
うつ伏せに倒れているその背中には、どのような速度で降ってきたらそうなるのか、深々と大きなガラスが貫通していた。
高層ビルの倒壊。後に『二人の』生存者の一人となった僕が告げられた、この惨状の原因。
地震も何も起きていないこの場所で、あまりにも不自然な崩れ方をしたのだと言う。
だが、そんなことは僕に関係ない。
問題なのは、その倒壊によって、150人もの命が奪われたことだった。
あそこで見た、最も醜い人間の本性は、僕と、あそこに居合わせ、生き残ったもう一人────
霜月花梨だけが知っている。
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「あぁ、どうしてまた、思い出したくもないあの日を。」
あの日の記憶。ようやく消したはずだと思ったが、どうやらまだ記憶に残っていたようだ。
本当に、トラウマを植え付けるほどに強烈な記憶は、なかなか消せないものだな。
結局、あのビルが倒壊した理由は分からず、最悪とも言えるあの事故は、時間が経つにつれて忘れ去られていった。
「あぁ、いつの間にか眠っていたのか。思い出したんじゃなくて、夢で見たんだな。」
隣に座っていた霊夢も、今は炬燵に潜って寝ているようだ。
「……冬、か。『あいつ』が死んだのも、ちょうどこの季節だったか。」
思い出すと、ひどく胸が痛む。
まだ、あのことを引き摺っているようだ。
「……少しは、罪滅ぼしになったのかな。こんなの、ただの逃げでしかないって分かってるけど。」
そんなことは、分かっている。
それでも、僕は償うべきなんだ。
だって、僕はあいつを───
どうも、霊夢よ。
また新しい人の名前が出てきたわね。
優都とはどういう関係なのかしら。
まだ、明かされるのは少し先になりそうよ。
次回までゆっくり待っていなさいよね!