第58話 人殺し
どうも、魔理沙だぜ。
最近は本当にシリアス展開ばかりだな。
私の出番もないし。
次の異変では出番が欲しいぜ。
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また、何事もなく一週間が過ぎていった。
嵐の前の静けさ、と言うのだろうか。音沙汰がなさすぎる。むしろ怖い。
「平和すぎるってのも、考えものよね。」
ちょうど僕と同じことを考えていたのだろう。
隣に座る霊夢がそう呟く。
「静かすぎるね。なにか良くないことが起きる前兆かもしれないな。」
「異変が起きないと、酒が飲めないのよ!」
前言撤回。霊夢と僕の考えていたことは、全く別だった。
「ていうか、お前何歳だよ?その歳で酒なんて飲んでて良いのか?」
「なんでよ?ここは幻想郷。あんたの居た世界ではどうだったのか知らないけど、ここでは酒を飲むのに年齢なんて関係ないわ。」
……そうだ。忘れていた。
ここは幻想郷。僕が元居たあの世界とは違うんだ。
まだ、向こうの世界の常識に囚われているんだな。この世界に居る限り、こんな常識は必要ないと言うのに。
「そう、そうだな。ここは幻想郷。忘れられた者達が集う、最後の楽園だ。」
──────────(view side Yuto?)
彼は、もう覚えていないのだろう。
あの日の僕が、何をしたのかを。何人の人間を『殺した』のかを。
───嫌だ、消えたくない!
───やめて!殺さないで!
その世界は、『消える』。
いくつもの世界を渡り、無限の時を過ごし。
幾百もの世界が『閉ざされた』後。
「あぁ、また終わったのか。……次は、どの世界へと行こうか。」
いったいどれだけの時間を、何も無いこの空間で、過ごしてきたのだろう。
───待って!もう少しだけ、もう少し待って!まだ消えたくない!
そう言った彼女達の言葉に、僕は何を思ったのだろう。
躊躇いもなく殺していく僕に、彼女達は何を思ったのだろう。
嫌だ。もう、嫌なんだ。
もう殺したくない。もう、誰も死なせたくない。
………笑顔が見たい。
ならば、どうする?
どうすれば良い?この血を、どうやって拭えば良い?
ならば、消してしまおう。
この『存在』を。『運命』を。『記憶』を。
二度と『終わる』ことの無いように。
二度と、殺すことの無いように。
「──『消失』」
その言葉は、全てを白く塗り潰し、何もかもを新しいものに書き換える。
自分が、消える感覚。
身体が、なくなっていく。
罪が消えないのは、分かっている。もはや僕の命などで償える罪ではないことも。
なら、何度も死ね。
幾度も、誰かの為に命を捨ててしまえ。
偽善だって良い。誰かを救う為に、その命を犠牲にしろ。
そんなことで償えるとは、思ってなどいない。
けれど、僕にはこうするしか選択肢が無いのだ。
あぁ。もう意識すら、塗り潰されようとしているのか。
なら、言っておこう。
いつか、『僕』は『僕』を思い出す時が来るのだろう。そして、後悔するのだろう。
忘れてはいけない。僕は、彼女達の近くに居るべきではない。
───君は、人殺しだ。
どうも、霊夢よ。
サブタイトルの意味に関しては、これからの物語を読んでいけば分かるわ。
つまり、まだ分からない。知ってるのは作者だけ。
次回までゆっくり待っていなさいよね!