第45話 シュレディンガーの猫
どうも、魔理沙だぜ。
作者のヤツが、一般の人なら大人でも知らないであろう、『シュレディンガーの猫』をサブタイトルに使ったみたいだぜ。
気になる人は、調べてみても良いかもしれないが、ほとんどの人が理解できないと思うぜ。
思考実験の一つだぜ。
どうしてこのサブタイトルを選んだのかは、作者以外は分からないと思うんだぜ。
気になったら、作者本人に聞いてみると良いんだぜ。
──────────
『おや、また来たのかい?』
目を覚ます。いや、目を覚ますと言うのは語弊があるか。
夢の中で、意識が覚醒する。
黒い槍に貫かれた時に出会った、『君の能力だ』と言うもう一人の僕。
見えないのに、そこに『在る』という不思議な感覚。
「あぁ、そうみたいだね。」
『……そろそろ思い出しつつあるのかな。』
「ん、何だ?」
『いいや、何でもないさ。それに、このことは今の君には話せない。』
それは『何でもない』とは言わないだろう。
『今の』僕ということは、追々話してくれるのだろう。
「それで?あれはどういうことなのか、ぐらいは説明してくれるよね?」
しばらく、もう一人の僕はだまったままで、
『……聞いてしまったなら、仕方ない。』
呟き、息を吸い込んだような気配がして──
『あれは……君の過去だ。』
そう、言い放つ。
僕の、過去?
いや、そんなはずはない。あんな記憶はなかったはずだ。
僕は人より記憶力が良い方だ。過去に起きた出来事はちゃんと覚えている。
「あんな記憶は、僕の中には無い。あんな過去があるのなら、覚えていないはずが──」
『無い、とでも言いたいのかな?残念だね、君は勘違いをしているよ。』
僕の結論を遮るように、もう一人の僕が言う。
反論を許さないとでも言うように、更に言葉を重ねる。
──君は、いつから自分の記憶していることが自分の『過去』だと思っていたんだい?
……最悪の冗談だな、それは。
この記憶は、僕の記憶じゃないとでも言いたいのか?
「じゃあ、この記憶は何なんだ?僕の記憶なのか?」
『あぁ。それは確かに君の記憶。でも、ところどころ欠落している部分がある。時間が経って忘れた、なんて言い訳が出来るレベルで、あちこちの記憶が抜け落ちてるはずだよ。』
いくら記憶力が良いとはいえ、人間である以上、限界はある。僕だって、時間が経てば忘れるのだ。
誤魔化しが出来る程度で、記憶を消しているのか。
『まぁ、それだけじゃないけどね。これに関しては、今君が知るべきことではないから言わないでおくよ。』
また、それか。
あれこれと、重要な部分だけは避けて話している。
肝心な部分が分からない。
自分のことなのに、分からないことしかないというのは、どうなのだろうな。
自分という存在が大きく揺らぎ始めた気がする。
自分が今、立っているのか、座っているのか、自分に関する『何か』が崩れるような感覚に陥る。
「自分っていうのは、分からないものだな。」
『仕方ないさ。君は特にね。だって──』
──世界を破滅に導くんだから。
いつか、何処かでも聞いた。
それと『自分が分からない』ことが、どう繋がっていると言うんだ。
「何処かで聞いたよ。どういう意味だ?」
『追々思い出すさ。すまないな、もう時間のようだ。誰かが呼んでいるよ?』
また、前と同じように、そこに『在った』存在が遠退いていく感覚。
「本当に、お前は嫌なヤツだよ。そうやって、重要なところは全部はぐらかして絶対に教えようとしないところとか───」
───僕にあまりにも似すぎているところとか。
どうも、霊夢よ。
『シュレディンガーの猫』ねぇ。
私には、難しくて理解できなかったわ。
次回までゆっくり待っていなさいよね!