第103話 閉ざす少女
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「それで。目的は達成したわけだけど、どうするの?帰るの?」
「そんなわけないでしょ。せっかく来たんだからここの住人とも仲良くなっておきなさいよ。」
そう言った霊夢の言葉に、さとりが表情を曇らせる。霊夢は『しまった』とでも言うような表情をした。
「……さとり、何があった?見たところ何か困ってるんだな?」
「……それは。いえ、言ったところでどうにかなる問題では無いんです。」
「……分かった。妹が閉じ籠って出てこないんだろ?なら、僕が手伝ってやるよ。」
質問に意味はなかった。さっき心を覗いた時にもう既に見ていたからだ。
どうやらさとりの妹、こいしが部屋に閉じ籠ったまま出てこないらしい。
「それは、そうですけど。分かったところでどうしようも無いことには変わりないでしょう?」
「そうだな……いや、いくらかやりようはあるぞ。無理ではないくらいだけど。」
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地霊殿の一室。閉ざされた扉をノックし、返事を待つ。
「……お姉ちゃん、しつこい。もう放っておいてって言ったでしょ。」
その声には少しの苛立ちが込められていた。
……これは。何があったのかは知らないが、綺麗な声が台無しなくらいに疲れた声だ。
「……ごめんね、さとりじゃないんだ。僕は神無月優都。少し前に幻想郷に来たんだけど、知ってるかな?」
出来るだけ優しい声でそう返す。すると、部屋の扉が少しだけ開けられる。
そこからさとりによく似た女の子が顔を出す。
「……貴方があの人間?どうしてこんなところに居るの?どうして私のところに来たの?」
「さとりが君を心配してたからね。何があったのか聞いてないけど、どうしたの?」
こいしは暫く黙り込み、やがて扉を開いた。
「入って。中でお話ししよう?」
「ん、それならお邪魔するね。」
入った部屋の中は暗く、どんよりとした嫌な空気が漂っている。
部屋にはぬいぐるみなどの女の子らしい物がたくさん置かれていた。
「……お兄さん、私達みたいに心が読めるんでしょ?なら、私がどうしてここに閉じ籠っているか、分かるんじゃない?」
「あぁ、分かるさ。でも、力は使わないよ。君が話してくれるのを待つ。」
そう言うと、こいしは目を丸くした。予想外の反応だったのだろう。
心を読み取るのではなく、彼女自身の口から聞くことに意味がある。
それに、何もかもが読み取れるわけじゃない。この能力は発動も条件もランダムだから正直かなり不便なものだ。
意識的に使ったり使わなかったり出来るが、出来ないこともたまにある。そして、意思に関係なく勝手に発動することもある。厄介なものだ。
「自分の口で話した方が、楽になることだってあると思うぞ。だから……話したくなったら言ってくれ。待つから。」
「……そう、なんだ。お兄さんってなんだか変な人だね。」