第101話 ヤンデレっ子の覚醒?
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あの異変から、早くも季節が変わろうとしていた。
花梨の墓の隣で咲いていた美しい桜は、次の春に向けて休暇中だ。
「……毎日来なくても良いのに、とか言いそうだな。言われても来るんだけど。」
今日もまた、花梨の墓の前で手を合わせる。どうしても来られない日以外は毎日来るようにしている。
「今回の異変が解決して、また酒宴をやったよ。今度はみんな酔い潰れて大変だった。レミリアも酒に強い方だって聞いてたんだけどなぁ……」
花梨に最近の出来事を話す。毎日来ているものだから、そろそろ話題も尽き始めている。
「……そろそろ行くね。こころが夕飯を作って待ってる頃だから。」
花梨の墓に背を向けて歩き始める。辺りは夕焼けに染められ、美しい橙色だ。
真夏という季節からだろう。服は汗でじっとりと濡れていた。
「……博麗神社にはクーラーはもちろん、扇風機も無いんじゃないかなぁ。普段はどうやって乗り切ってるんだろ。」
霊夢のことだ、『根性』とかだろ。
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「……何、やってんの?」
「え!?えと、これはその、なんというか……マーキング?」
「………僕のシャツに?」
帰ってきて部屋に戻ると、霊夢が僕の布団の上で何やらもぞもぞしていた。人のシャツを手に持っている。しかも、僕が墓参りに行く前に着替えた後のシャツだ。
「……へぇ。居ないときに人の部屋に忍び込んで、人のシャツの『臭い』を嗅いでた言い訳がそれ?」
「べべべ、別に『匂い』なんて嗅いでないわよ!?ただ……」
霊夢が顔を真っ赤にしてあたふたする。なんだよちょっと可愛いじゃないか。
「そう!私の匂いを擦り付けて、優都を眠れなくしてやろうと思ったのよ!」
いや、貴女自分で『マーキングしてる』って言ってましたけど。はい、言い訳だね決定。
「あぁそう。じゃあ遠慮なく寝かせてもらうね。それでいい?」
「む、むむむっ……。良いわよ。私の匂いで興奮しないことねっ。」
「それは無理。女の子の匂いが染み付いてるのに、意識するなって言う方がおかしい。」
割と本気の言葉で返すと、霊夢が茹で蛸みたいに赤くなって素早く部屋から退散した。
「……ちょっとからかいすぎたかな。後で謝っておくことにしよう。」
霊夢が出ていって開けっ放しになっていた廊下から外に出ようと──
「優都。夕御飯出来てるの分かってたんだよね?分かってないはずなかったよね?霊夢と何してたのかな……?」
「えっと、こころさん。どうして包丁なんてお持ちなのてしょうか。」
「……料理の最中だったんだよ?もう夕御飯だから、早く来てね?」
ニコニコ笑顔のまま台所へと戻っていくこころ。
良かった。今晩の食材にされるところだった気がする。
こころ……恐ろしい子だ。
わざわざ表記を“臭い”と“匂い”に変えてあるのは……そういうことだよ。