To Me
あたし達の朝は、コーヒーじゃなくて一杯の味噌汁から始まる。
あいつはバカみたいな温度のお湯でインスタントのそれを戻すから、
あたしはいつも氷を二つ器に入れて啜る。
「モノズキ」
「あんたもね」
こいつときたら口内の粘膜までバカに強いのだ。
「二万貸してよ」
「いや」
あたしは髪を二つに縛りながら却下する。
「これ、痛いんだけど」
あいつは鈍い音を立てながら椅子を回してあたしに背を向けると、タンクトップをめくり上げ、それを見せつけた。
天使の羽、あたしの爪痕。
「倍にして返してよね」
「もちろん」
あたし達っていつもこうだ。
「メイちゃんの爪って超きれいだよね」
「そうですか、ありがとうございます」
だってあいつが言ったのだ、オレさ瓶詰めにしたい、こいつらを。
んでさ、朝起きて一番最初に朝日に透かしてさ、おはようって言う。
だからあたしは整える、稼ぐ、金を渡す。
仕方ない、天使に人間は適わないんだ。
「キズ、付けてよ。スキなんでしょ」
あたしは爪を立てる、ゆっくりと交差させた指を持てる限りの力を持って食い込ませ、でも決して壊してしまわぬように
慎重に。
「そんなにイイの」
愚問だ。だってこんなにもいとしいのだ。
震える。
嘘みたいな言葉より、冷たい抱擁よりもずっとあなたを感じられる。
「オレでイイの」
「いいも悪いもないわよ。あたしにはあんただけなの。わかってるでしょ」
あいつは人間じゃないからどんなに一生懸命あたしがしるしをつけても、繋ぎ止められない。
あたしはあいつを自由にしたくて、でも引き摺り下ろしたくて。
果てる。
「爪、さわってもい?」
捧げる。
「うん」
必要とされているから。
あたしの一部はあたしだから、あたしが稼いだものもほぼあたしだから。
いいでしょ? いいの。
「ありがと」
そう言って天使はあたしの爪に付着した血液を擦った。そして一つ一つを。




