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タイムマシン

作者: 関口 太郎
掲載日:2014/07/17

 ある日の学校の昼休み、僕はちょっとした雑談のつもりで、友達にこんな話題を振った。

「もし、タイムマシンが手に入ったら何がしたい?」

「え?」

 友達は少し考えた後、こう答えた。

「何もしない」

「え、なんで?タイムマシンだよ!?どんな時代にも簡単に行けるんだよ!?」

「いや、だって気持ち悪いじゃないか」

「何が?」

「例えば、俺が100年後の未来に行ったとするだろ」

「うん」

「すると、そこは異世界も同然だ。たとえ日本であったとしても、俺の知っている日本じゃないし、知っている人間は一人もいない」

「それはそうだろうね」

「俺自身だって、とっくに死んで墓の中だろう」

「当たり前じゃないか」

「その『当たり前』が気持ち悪いんだよ」

「…………?」

「考えてもみろ。その100年後の未来に、俺という人間は存在している。この両足で立ち、息をして、心臓が動いている。それと全く同じものが全く同じ時間に、骨だけになって暗くて狭い石の下にひっそりと置かれているんだ。考えただけで気持ちが悪くなる」

「それだけじゃない。もし100年前の過去に行ったとして、そこには俺の曾爺さんと曾婆さんがいるだろ」

「うん……」

「それぞれ4人ずついるわけだが、その全員に俺の爺さんと婆さんを産んでもらわなきゃならない。でないと俺が生まれないからな」

「未来が変わるもんね」

「もし俺が100年前の街を不用心にうろついて、偶然蹴った石が野良犬かなんかにぶつかったりして、その犬が怒って暴れた末に俺の先祖の誰かを食い殺すかもしれない」

「また、そんな漫画みたいな……」

「可能性がないとは言い切れないだろ。もしそんなことになれば、俺の存在は一発でおじゃんだ。存在そのものを根底から否定され、なかったことにされる。そんな危険なところに行くなんて、正気の沙汰じゃないと俺は思うがな」

「でも、本とかでは歴史はちょっとやそっとじゃ変わらなくて、元の歴史に戻ろうとするって聞いたことあるよ」

「そんなの、タイムマシンに乗ったこともない人間が考えた根拠のない理論だろ。そもそも、そんなのSF的な設定の1つに過ぎないしな」

「そっか……」

 そのまま何か言おうとしていたところで昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り、僕は反論をすることも出来ず席に着いた。

 元々、反論できる言葉なんて持ち合わせていなかったけれど。


 その日の放課後、僕は1人で近所の河原へと足を運んだ。

 この周辺ではかなり大きな川で、中心の深い所では流れが早く水が胸の辺りまでくるので、遊泳禁止と先生からきつくは言われている。

 その川べりに立つと、僕はポケットからタイムマシンの鍵を取り出し、強く握り締めたまま川へ向かって力いっぱい放り投げた。

 鍵は2、3秒宙を舞い、そのまま小さな水音を立てて僕の視界から消えていった。


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