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イケメンルーキーとお局さま

作者: 男爵令嬢名無しさん

恋愛?でもないけど文学でもない。

こんな新人もこんなお局さまもきっとどこかにいます。

いや、確かに俺はルックスいけてるし、爽やか君だし、自分でいうのも何だけどモテ男なんだよね~

女の子キライじゃないから、ちやほやされるとうれしいよ。

優しくしちゃう。

今はフリーなんだけど、きっとすぐにかわいい彼女ができるはず。



でもさ、っていうかだからさ、俺がモテちゃうのは仕方ないけど、オールドミスはお断りなんだよね。


「伊藤く~ん、明日、一緒に外でれる?」


職場の先輩。ミヤコさん。年は多分、40くらい。

俺より、俺の母親との方が年が近いはず。

職場でただ一人の『事務職』女性でまあ、雑用全般こなすお局さまだ。

他の女性は『総合職』で男性と同じ条件だけど、彼女だけは課長と同期なのにヒラ。

『事務職』は退職までヒラなんだって。

そんな情報はいいんだけど。


「え、明日ですか?」

「ええ、かちょ~いいですねよ?伊藤君で?」

「明日は、ああ、南工場か・・いいよ。そろそろ伊藤も顔覚えてもらわんとって思ってたとこだ。サンキュー。」

「いえいえ。じゃあ、伊藤君よろしくね。」


普段は厳格な課長も彼女といると雰囲気がやわらかくなる。上司と部下じゃなくて同期の仲間の気安さからなのか・・・


俺はいま、お局さまのお気に入りらしい。


やたら、仕事も頼まれる。

一緒に行動することが多い。

彼女はさすが、お局さまで、社内を歩いているといろいろな人に声をかけられる。

彼女からかけることも多い。


この間なんか出入りの電気工事のおじさんとまで親しげに話しをしていた。

「よう。みやちゃん。働いてるか?」

「もう、こっちのセリフです。あっこれ、ウチの伊藤君。優しくしたげてね。」


ガハハと笑い声を残しておじさんは去っていった。


「今の鈴木電気設備の?」

「そうそう。いい人だよ、何かあったら相談したらいいよ。今、私と一緒なの確認してたから次回は私がいなくても大丈夫。」

「お名前は?」

「え?知らない~でもスズデンさんっていえばくるから。」


なんじゃそりゃ?



今日は南工場にいくから、9時には玄関ねと言われていた。

服装はいつものでいいかと聞けばなんでもいいよの返事だった。


南工場は300人もの従業員がいる大きな工場だ。

本社勤務の俺からすると同じ会社なのかと思うほどデカイ。


「先に工場長に会うね。」

軽い調子でいうミヤコさんにびっくりする。

工場長っていえば、専務だよ?

ええ?

「大丈夫、大丈夫。怖い人じゃないから。」

怖い人って聞いてる・・・

いつも怒ってて、機嫌悪そうにしているって・・・


「おはようございます~す。」

びくびくしながらミヤコさんの後について工務室に入る。

あちこちから

「みやちゃん、久しぶり。」

「みやちゃんじゃないか。元気か?」

「隣のイケメンくんはなんだ?」

とか声がかかる。

さっき、守衛所でも守衛さんたちと何やら楽しそうに話していた。

なぞの人、ミヤコさん。


「木下さんいる?」

「工場長なら部屋にいると思うよ。みやちゃんがきたなら喜ぶな。」

「そうかな~行って来ますね。何かいる?」

いるって何だと思っていると、横の課長席から書類が渡された。

「あっじゃあ、この書類、ハンコもらってきて。」

「ああ、俺も。これ」

「私もです。いいですか?これすぐに欲しいんですよ。」

どんどん、書類が渡された。

「了解。じゃあ。あっお昼こっちで食べるから2人分お弁当追加しておいてください。」

「え~きっと、工場長が外に誘ってくれるよ?」

「だから、先にお弁当頼んじゃうんですよ。」




「失礼しま~す。」

「ああ・・・みやちゃんか!来るなら来るって言ってくれよ。」

工場長室を尋ねるとノックして返事もまたずにミヤコさんがドアを開けた。

机上の書類から不機嫌そうに顔をあげた専務がミヤコさんをみとめるとたちまち笑顔になった。

「木下さん、皆が書類まってましたよ。とりあえず、これ、よろしくお願い致します。」

預かってきた書類を渡すと、専務が受け取ってミヤコさんに問いかけた。

「みた?」

「ええ、どれも問題ないです。」

「まあ、みやちゃんに預けるんだから、チェックずみのやつだけどね。」

「付箋のとこだけ目を通してください。」

真面目な顔になった専務が言われたとおりに付箋のところを一通り読むと決裁印を押していく。

いいのか?こんなで?


「今日は、ナニ?」

「ああ、うちの新人の顔見せと今度の仕入先さんの工場見学の調整です。」

「そうかそうか、もうそんな時期か、その彼かな。」

「はい、伊藤君、ご挨拶。」

「伊藤真樹です。よろしくお願い致します。」

「これはまた、ミヤちゃん、イケメン好きだもんね。」

「そりゃあ、若くてカッコいい方がいいですよ。あはははは」

「相変わらずだねえ。伊藤君、よろしくね。木下です。ミヤちゃんとはミヤちゃんが入社したときからのお付き合いだからどうしてもこんな風に気安くなっちゃうんだよ。」



工場長室をでると、今度は俺に簡単な工場見学をさせてくれるという。

来月、仕入先を連れて工場見学をするのでそれに付き添う俺のためのリハだそうだ。

「案内は工場で用意してくれるから、付き添うだけだけど、トイレとか聞かれたらわかるようになっておいてね。女性もくるし、そのための伊藤君だから。」

「なんすか、それ、俺ホストみたいじゃないですか・・・」

「ごめんごめん、工場の案内の人って大体、いかついおっさんなのよ。女性は声がかけにくと思うの。聞かれた方もね。その点、伊藤君は物腰がやわらかいから適切に対応できるでしょ?長所はいかさないと。」

「ミヤコさんがやればいいんじゃないですか?」

「私は『事務職』だからね。仕入先さんの前にはでられないんだよ。」


「みやちゃ~ん。」

ミヤコさんの言葉の意味を考えているとミヤコさんを呼ぶ声がした。

「きゃ~なおくん!ひさしぶりい~」


ぎゅうううううう


いや、なんじゃこりゃ。目の前で40すぎのおっさんとおばちゃんが抱き合うの図。

女子高生のぎゅ!みたいなやつだ。


「もう、せっかく、俺がここに配属になったのに、なかなかこないから、何年ぶり?」

「10年?くすくす。お互いおじさん、おばさんだよね。ホラ、若い子が引いてるよ。」

「あっごめん~。おや、イケメンじゃん。みやちゃん好きなんだから。」

「やめてよ。でもえへへ、どうせならねえ。伊藤君、こちらは中村直樹君、あ~ともう君でもないか、前の職場の後輩なの、年は同じなんだよね。だから仲良しなんだよね。」

「どうも、中村です。みやちゃんに会っちゃうと昔を思い出して、甘えたしゃべり方になっちゃうんだよね。オネエじゃないから。よろしくお願い致します。」


前にも同じ状況で中村さんにはオネエ疑惑があったんだそうだ。

「なおくんは弟みたいで。甘えんぼだしねえ。」

「みやちゃんもじゃん。」

「まあね、なおくんは甘えんぼだけど甘えさせてもくれるから大好き。」

「俺も。」


なんじゃこりゃ。40過ぎの会話か?

中村さんは独身だって言うしそんな仲良しなら結婚しちゃえばいいのに。

そしたら俺もミヤコさんから解放される。


工場見学の間も、ミヤコさんは中村さんとおしゃべりをしつつ、あちこちからかかる声に愛想よく答えていた。そのたびに俺を「うちの伊藤です。」と紹介していた。


帰りがけに専務がわざわざ、ミヤコさんを見送りにきた。

どんなVIP!

わかれのハグをしているミヤコさんと中村さんに苦笑しつつ。

「中村、仲良しなのは知ってるけど、伊藤君が引いているよ。それに知られたらまた、怒られるぞ。」

知られたら?誰に?また?


俺の頭の中はクエスチョンマークでいっぱいだった。


なぞのお局、ミヤコさん。



「ぎゃ~。」

俺の、データが!

「ごめん~」

定時で帰ろうとした隣席の子が間違えて俺のPCのコンセントを抜いた。

うそおん。

「多分、すぐなら大丈夫だよ。バックアップ電源あるでしょ?」

「それが・・・」

「ないの?ん~」

ミヤコさんが顔を出す、俺のこと良く見てるんだよね。

イケメンのおのれが怖い・・

「あっ、さっき、パソコン屋いたでしょ?」

「営業部に納品にきてました。」

「わかった、呼んでくる。」



ミヤコさんはすぐにスーツをきた暗そうな人を連れてきた。

「これ、いま、うっかりコンセントぬいちゃったの。なんとかなる?」

「もう~ミヤコさん、本当なら有料ですよ?」

「これは、お仕事じゃなくてお友達としてお願いしてます。」

「仕方ないっすね。会社には言わないでくださいよ?」


ぼそぼそと話しをしたと思ったら、彼がなにやら行って、俺のデータは帰ってきた。


「じゃ。」

「うん。ありがと。またね。」

「はいはい。今夜はきますか?」

「うん。遅くなるけど、いくよ。他メンにもいっておいて。」

「らじゃ。」


「今夜?」

「ああ、ゲームゲーム。いまさ、同じパーティなの。」


「今の方は?」

「うちの会社にPCを入れてる会社の人。名前は知らない。ゲームではウルフくん。」


ミヤコさんの謎が深まりました。




日曜日、特にすることもなかったので街中の漫喫でお茶していた。

下手な喫茶店にはいるより、ここの方が安くあがるし、俺ほどのイケメンだとナンパもうざい。


「あれ?伊藤君?」


「ミヤコさん?」

怖い、ストーカー?こんなとこまで?


でも、ミヤコさんには連れがいた。

若い・・男っていうより、男の子?


「こんなとこで会うなんて!あっ、ショウジくん。こちら、伊藤君。同じ会社なの。」

「へえ、ショウジです。よろしくお願いします。俺、先に部屋に入ってるから。」

「うん。好きなもの頼んでいいよ。」


「高校生?」

「ああ、中学なんだけどね。大きいから、よく間違えられる。今日はカラオケにきたの。じゃあねえ」


え?若すぎでしょ?つばめくんにはしては若すぎだよね・・・イケメンくんだったけど。

イケメン中学生とカラオケって・・ますます謎です。ミヤコさん。




「え?ミヤコさん有休なんですか?」

「うん、明日はいないからもろもろ、よろしくお願い致します。」


やった。開放される。

社内だといつでもミヤコさんに見られてるようで落ち着かないんだよ。



ミヤコさんのいない会社は静かだった。

暗いとかじゃなくて仕事もはかどらないわけじゃないけど

なんていうか静か。


いつもならミヤコさんが2コールででる電話が、長めになっているのに気づいた。


廊下で偶然あった、スズデンさんに電算機部への道を聞かれた。

「よかった。知った顔だ、電算機部に行きたいんだよ。ミヤちゃんに会ったら聞こうと思ったのに今日、休みだってな。」

「はい。」


課長の決裁箱の中はいつも、ミヤコさんが処理していたのでその日はだれも手をつけられない。

でも、ミヤコさんが休む前に急ぎの分だけ付箋を貼っていて、その付箋に『決裁後、伊藤君へ』となっているのがいくつもあった。

それぞれの処理がメモでついていて俺はこれは営業部へもっていく、とかこれはPDFをとるとか本当に忙しかった。なんで、何でも俺なんだとつぶやいたら、一つ上の先輩が、新人だからだ!俺も去年はそうだったといった。


帰る頃にはぐったりしていた。

いないと分かるミヤコさんのありがたさだった。


今日、わかったのはミヤコさんが俺にかまうのはひょっとしたら俺がイケメンだからじゃなくて、新人だから?ってこと。

それはちょっとさびしいなあ・・なんてね。


翌日、課長が課員全員を集めた。

「ミヤコさんですが、しばらく、お休みされることになりました。」

「え?」

「妊娠初期なんだが、ちょっと具合が悪いらしい。少しの間、入院して、その後、自宅療養で安静にするそうです。また、ご出産後、育児休職もとるそうなので場合によっては1年以上お休みされます。不在の間は派遣社員さんを頼みました。そちらでよろしくお願いします。」



俺は恥ずかしさに悶え死ぬところだった。

ミヤコさんはお局だけど、オールドミスではなかった。


「ごめんね。ちょっと、もう、いい年なので3人目とはいっても身体きつくて。」

見舞いにいくとイケメン中学生が部屋にいた。

「ショウジくんだっけ?」

「はい、いつも母がお世話になります。先日はどうも。母親とカラオケなんて恥ずかしくて・・」

「そっちが長男。次男はまだ小学生なんで。」

「ご主人は?」

「うん、うちの仕入先の営業なんだけど、今日は仕事。前はうちの会社にいたんだよ。出向にでてそのまま転職したの。」


ミヤコさんは高卒で入社したので課長と同期だけど、課長は大学卒だから4つ違い。

年齢でいえばまだ、37歳だった。23で結婚して、2人の子持ち。まだ出産してもおかしくない、

左手に指輪がないので誤解していたがアレルギーがあってはめていられないんだって。


まじ、穴があったら入りたい。


ミヤコさんが俺にかまうのはやっぱり俺が新人だからだった。

そして、新人教育は『事務職』さんの仕事なんだって。


恥ずかしいけど、ちょっと、がっかりしたのは内緒。












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