お日さまソング
広い野原の真ん中で、お日さまの光をいっぱい浴びて元気に歌うヒマワリがいました。
「お日さま、お日さま。サンサンサン。
今日もぼくの上で光っている。
ぼくは今日もお日さま目指して、一日背伸び体操。
明日は、お日さまに背が届くかな」
天の恵み、大地の恵みを受けて、ヒマワリの背はグングンと伸びました。けれど、それでもまだまだお日さまには届きません。
お日さまは、ヒマワリのずっとずっと上から地上を見降ろしていました。
毎日、毎日。ヒマワリはお日さまに向かって歌い、少しでもお日さまに近づこうとしていました。けれど、そんな日々はいつまでも続かないことに気づきます。
「ああ。やっぱりお日さまにはかなわない。ぼくの背はこれで精一杯。
それでもぼくは、お日さまを追うことを止めないよ。
お日さまは、ぼくの目標。ぼくの希望」
ヒマワリの背はずいぶんと高くなりました。広い野原の真ん中に、ぽっとのっぽな頭が突き出るくらい背は伸びましたが、そこが限界でした。
けれど、ヒマワリはへこたれません。
むくっと頭をお日さまに向けて、サンサンとしたお日さまの光をいっぱいに浴びて、ヒマワリは花を咲かせる準備に入りました。
少しずつ、少しずつ。
天の恵み、大地の恵みを受けて蕾はふくらみ、ゆっくりとほころんで――ヒマワリは大きな花を咲かせました。
大きな、大きな。お日さまのような黄色い花です。
ヒマワリは今日も元気に歌います。
「お日さま、お日さま。サンサンサン。
今日もぼくの上で光っている。
お日さまにも見えるかな。ぼくの大きな黄色い花。
お日さまはいつも、空の上から地上を見降ろしているから。
だから、ぼくは空に向かって花を咲かせるよ。
少しでも近づけるように。お日さまに見えるように、大きく大きく」
ヒマワリの歌は、昼の広い野原に明るく響いていました。
そんなヒマワリをそっと見守る、広い野原に住む一匹の小さなモグラがいました。
毎日、モグラはヒマワリの歌を子守唄に昼は大地の下で眠り、夜になると地上に出てきて、下からそっと少しずつ大きくなるヒマワリの姿を見上げていました。
ある静かな夜。
広い野原に、モグラの小さな声が聞こえます。眠るヒマワリを起こさないように、そっとそっとモグラは囁いていました。
「少しずつ、少しずつ育つ君は、僕の希望。
お日さまの光をいっぱい浴びて、大地にしっかりと根を張って。
君はグングンと大きくなった。
グングン、グングン。
君の背は、空の上にあるお日さまにも届きそうなくらい大きくなれたかな?
もっと、もっと。
大きく、大きくな~あれ」
ヒマワリの願いが叶うよう、毎日、毎日、モグラは願っていました。
夏も真っ盛りの、月のきれいな夜。
いつものように地上に出て、下からヒマワリを見上げたモグラは、そこに大きな黄色い花が咲いていることに気づきました。
眠るヒマワリを起こさないように、モグラは小さな声で歌います。
「君の大きな黄色い花。きっと、お日さまにも負けない大きな、大きな花。
君はいつもお日さまを追っているけれど、僕には君がお日さま。
夜でも消えない、黄色いお日さま。
僕は本当のお日さまを知らない。
でも、そんな僕に君がお日さまを教えてくれたんだよ。
お日さまの光をいっぱい浴びた、お日さまのような君。
君は僕のお日さま。僕の希望」
モグラの歌は、夜の広い野原にひっそりと響いていきました。
真夏が過ぎて、秋が近づいて、ヒマワリはたくさんの種を実らせました。
「お日さま、お日さま。サンサンサン。
今日もぼくの上で光っている。
お日さまの光は、少しやわらかくなったよね。もう夏も終わりかな。
また、真夏のお日さまに会うために。
今度こそ、お日さまに背が届くように。
ぼくは種を残すよ」
ヒマワリの歌は、昼の広い野原に明るく響きました。
けれど、その声は徐々に小さく、元気がなくなっていきました。
そして――。
月のきれいな夜に、ヒマワリの歌が聞こえました。
いつもは昼に歌うヒマワリが、初めて夜の闇の中で歌っています。
「聞こえていたよ、きみの声。
ぼくをずっと見ていてくれたね、小さなモグラくん。
また来年。もっと大きな、大きな花を咲かせるから。
見ていてね。見守っていてね。ぼくの小さな友達。
それまで、さようなら」
消えそうなほど小さな歌声は、風にのってモグラに届きました。
モグラは驚き、大急ぎで地上まで出て、ヒマワリを見上げました。
いつもお日さまばかりを追っていたヒマワリ。その歌は、いつもお日さまに向けて歌われていました。
地上の小さなモグラに向けて歌われたことなど、今まで一度もありません。夜にしか地上に出られないモグラは、ヒマワリが自分のことに気づいているとはまったく思っていませんでした。
モグラはそれでいいと、ずっと思っていました。
ヒマワリは昼の花。モグラは夜の生き物。
住む世界が違います。
モグラにとって、ヒマワリは憧れでした。
見つめているだけで、モグラは幸せだったのです。ヒマワリが自分のことを知らなくても。
そう、この時までは思っていました。
モグラは、初めて大きな声でヒマワリに話しかけます。
自分のことを友達と呼んでくれたことがうれしくて、初めて自分に向けらた歌が別れの言葉であることが悲しくて、モグラは歌います。
「気づいていたんだね、僕の声。
見ているから。見守っているから。また来年。
大きな、大きな黄色い花を咲かせてね。
君が僕のお日さま。僕の希望。僕の大切な友達」
見上げたヒマワリは、お日さまのような大きな黄色い花をもう咲かせていません。ヘニャリと頭を下げて、しおれた姿がそこにはあるだけです。
けれど、それでもモグラにはヒマワリがお日さまに見えました。夜にも消えない、モグラが見守り続けてきた地上のお日さまです。
モグラは必至でヒマワリに呼びかけ、耳をすましました。けれど、返事はありません。枯れてしまったヒマワリの声はもう、いくら待っても聞こえてきませんでした。
モグラの目から涙が流れます。
ポロポロと。ポロポロと。涙が地面に落ちていきました。
その時、モグラの頭にコツンと何かが落ちました。それは、ヒマワリの種でした。
土の上には、たくさんのヒマワリの種が落ちています。
そのことに気づいたモグラが歌いました。
「まだ小さな君を大切にするから。
また来年。君と会える日を待っている。
約束だよ。君と僕とお日さまと。きっとまた」
大地に落ちた種を一つ拾い、モグラは笑いました。
「僕の希望の種。僕の大切な友達。
来年、また君に会える日を待っているから。
君の歌声をまた、聞かせてね。
大きな、大きな黄色い花をまた、咲かせてね」
秋の姿に変わった夜の広い野原に、モグラの歌が響きました。
少しの間のさよならと、次の年への約束をのせて、泣き笑いのようなモグラの声を秋風が運び、広い野原がほんの少しだけ静かになりました。
次の年の夏。
広い野原いっぱいに、たくさんのヒマワリが芽吹きました。
ヒマワリ達は歌います。
「お日さま、お日さま。サンサンサン。
お日さま、お日さま。サンサンサン。
今日もぼくらの上で光っている。
ぼくらは今日もお日さま目指して、一日背伸び体操。
明日は、お日さまに背が届くかな」
ヒマワリ達の歌は、昼の広い野原いっぱいに響いて、とても賑やかです。
「お日さま、お日さま。サンサンサン。
お日さま、お日さま。サンサンサン。
ぼくらの小さな友達。見ていてね。見守っていてね。
もっと、もっと、大きく、大きくなって。
黄色い大きな、大きな花を咲かせるから。
お日さまにも負けない、大きな花を咲かせるからね。
ぼくらときみとお日さまと。約束だよ」