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Romio and Juliet  作者: 小山 優
4/4

Romio and Juliet④

Romio

 自分がその少女を見つけたのは、太陽が西に傾き始めたころだった。

「暴漢に襲われている少女を発見。任務を中断して保護する」

 手元の魔法石に連絡する。相手はリットではなく、団所属の通信員だ。キャピェレットの警備部に連絡が行って、暴漢逮捕のための人手を寄越してくれるだろう。

 フードを被ったその少女は、その二倍ほどの体格の大男に追いかけられていた。

 声からして、客と娼婦のいざこざではない。第一、こんな明るい時間にあるものでもない。あるとすれば支払いで揉める早朝か、『実は娼"婦"じゃなかった』なんてことのある夕方だ。

「ったく、仕事が増える」

 その鬼ごっこが消えていった路地へと向かうと、案の定、少女が強面三人に袋小路へと追 い詰められていた。綺麗に大きさが大中小に分かれている。しかも、三兄弟と言われれば納得する程度には、三人揃って容貌があまり整理整頓されていない。脂肪も、豚が土下座するぐらいに豊富である。筋力はあるだろうが、体格比では弱いぐらいだろう。

 丸腰の少女に対し、大の男は斧を背負い、小の男がナイフを弄んでいる。中くらいは素手だ。

 ジリジリと男たちは少女に近づいている。飛びかかってイケないコトをし始めるのは時間の問題。

――助けるとして、最初はあいつをこうして…。

「めんどくさいな、本当」

 腰から大剣を抜き、自分の『力』を通す。

――市街で魔法はご法度なんだが、そんなのは始末書でどうにかなる。まずは目の前だ。

 騎士団支給の大剣に、赤い線と 円の模様が浮かび上がる。魔力付加(エンチャント)の一種だ。自分の魔力を魔法陣を通して剣に宿し、様々な効果を生み出す。今の場合はただの『発火』だ。

 魔法とは、(エネルギー)を操作して具体化する動作。それが生み出すのが、一瞬で点く部屋の電気であり、離れた所との会話で、敵と戦う力だ。それに必要なのは、何をするかを記した『魔法陣』、それを起こさせる『魔力』、そして最後に、スイッチを入れる『詠唱』。

『――右手にすべてを壊す力を、左手にすべてを守る力を』

――誰も失いたくない。誰にも奪わせはしない。そのために戦う。

 心に決めた合言葉。違えることなく力を刻む。

 手練れになれば、無詠唱で魔法を発動できるし、自分も詠唱なしでできる魔法を幾らかは持っているが、これから行う暴走紛いの魔法は詠唱を行わないと難しい。

 言葉を受けた大剣が炎を纏い、赤く煌めく。

 次いで、足と動体視力に『身体強化』の魔法を発動する。戦闘の基礎であるこちらはさすがの自分でも無詠唱でできる。リットによれば、世の中には無詠唱で空を飛んだり瞬間移動したり山を吹き飛ばしたりする人間もいるそうだが、眉唾物だ。

 小声の詠唱に、しかし大男は気付いたように後ろを振り返ろうとする。他の二人は無反応だ。少女の方は顔が見えないのでわからない。

――一瞬で決める。

 石畳を蹴って加速。最高速には程遠いが、今はそれで十分だ。

 剣を居合に構え、小男の背後へ詰め寄る。手元で感じた魔力の熱さが心地よい。

「ぶっ飛べ!!」

「ッぐガぁ!?」

 後ろからの不意打ちで、小男の背中を剣の腹で殴打した。背骨が少々人として不可解な動きをしていたが、猫背の矯正には丁度いいだろう。

 それで大男の気づきは確信に変わり、斧を素早く背から抜き出した。手際はどこかの傭兵級。中男のほうも、小男の呻きで気づき、こちらを振り向いた。だが、

――遅い。

「てめぇッ!!」

 飛びかかってきた中くらいを、剣を振るったと同時に生んだ炎で吹き飛ばす。脂肪の焼ける香ばしい臭いがした――いやこれは近くの肉屋のトムおじさんが豚肉の下ごしらえをしている香りだ。そうじゃないと、俺の始末書が二、三枚増えることになる。

 子分を二人ともやられた大男は、斧を構えて振り上げる。真っ赤にして怒ったその顔は少し滑 稽だ。

「なにしやがんだ!! 優男野郎(Romeo)が!! 」

 誰が優男(Remeo)だ! あんなのと一緒にするな! 

 こちらの空いた隙に斧を振り下ろした大男の攻撃を、大剣で受け止める。

 キリキリと鍔迫り合いを行うが、相手の力は推し量れた。

「てめぇが…軟弱者(Romeo)だッ!!」

 大剣が斧を弾いた。ゴン、と重い音が響いたが、大男は負けじともう一度大きく斧を振りかぶり、こちらの脳天めがけて振り下ろす。だが、

――腹ががら空きだ!

 そこに、真一文字の剣撃を加える。血が出るだけだ、死にはしない。腸内のものを切った気がしないでもないが、死にはしない。多分。

 ガ、と痛みの呻きを発した大男の斧は、惰性でそのまま振り下ろされてきた。それを、炎の勢いで受け止め、押し返す。斧と一緒に大男の体が後ろに持っていか れ、仰向けに倒れた。

 すべてが沈黙した後、聞こえたのは、的外れな近所の夫婦喧嘩だけ。

 ふぅ、と休みの溜息をつき、向いたのは茫然自失としている少女の方。怯えを通り越して唖然といった様子。失禁しなかっただけ肝が据わっているほうだろう。

「大丈夫か? 裏路地なんかめったに入るもんじゃない」

 治安が良くなったとはいえ、まだまだ貧困問題も多い。そんな時に路地裏に入るのは愚策としか言いようがないだろう。

 聞いた後、そばにレイピアがあるのに気づく。

「そんな細い得物で男とやり合おうなんて思うな。それが使えるのはよくて坊ちゃま貴族同士の決闘だバカ」

 そのレイピアを拾い少女に手渡す。多く生産されている、騎士団採用の護身用レイピアだ。よく手入 れされているが、かなりの年代物だ。形式は十年ほど前の型だ。

 レイピアは基本的に飾りである。こんな細いものが実戦で使えるわけがない。そもそも、有効面に当たらなかったら永遠にセーフなんてどんな戦闘だ。乱戦なら、足に当たっただけで生死が危ぶまれる。

――俺も一時期使ってたけど、やっぱり大剣ぐらいないと心もとないぞ

「自己紹介が遅れた、モンタギュー魔法騎士団長、ロミオ=レイ=クルーカスだ」

 大剣を鞘にしまい、手を差し出す。よく見れば、フードの端から見れる金髪は中々手入れされていて整っている。実はどこかの金持ちの令嬢だったりするのか。

 動いた相手の手は、だけど自分ではなくフードにかけられて――


Juliet

 その勝負は、ものの見事に一瞬だった。

 赤い大剣が子分の後ろに見えたと思うと、その子分が盛大に吹き飛んで、沈黙。

 倒れる小男の向こう側には、簡素な服装の人影が見えた。だけど、それは炎に紛れて見えなくなる。

 鮮やかな赤が視界を踊り、気づけば目の前にはデカブツとその人だけ。

 その舞は、無駄な動きの全くない、見るものを魅了する動き。その赤は、敵を圧倒し味方を守る戦士の光。

 間違っても、どこぞの貴族のガキ共がちゃちな剣でカチャカチャやってるのとは比べ物にならない。

 かっこいい。

 その言葉のみ形容される。ただただかっこいい。

 大男の斧が弾き飛ばされ、トドメが視界に捉えられることなく繰り出され、デカブツが倒れる。

 ピンチの時に駆けつけ、お姫様の危機を救う。その姿はまるで王子様。

「大丈夫か? 裏路地なんかめったに入るもんじゃない」

 その王子様が私のレイピアを拾ってくれる。大した値段じゃないけど、思い入れのあるものだ。傷もついてないようでよかった。

「そんな細い得物で男とやり合おうなんて思うな。それが使えるのはよくて貴族同士の決闘だけだバカ」

 怒られて、でも優しさのこもった言葉に、少し顔が熱くなる。

「自己紹介が遅れた、モンタギュー魔法騎士団長、ロミオ=レイ=クルーカスだ」

 モンタギュー、しかもロミオ。でも、あのバカとは比べ物にならない、正真正銘の王子様。

 感じる心の動き。それの正体を知らないほど自分はバカじゃない。

――もう、この人以外にはいない。私をどこかへ連れて行ってくれるのは。

 そう笑って、フードに手を掛ける。

 自分の願いを伝えるために――




『――私にとってのそれは、きっと運命のときめき。冒険的な刺激。熱く滾る熱情。だって、こんな出会いは今までなかった。守られたことも、怒られたことも。なら、そうならないほうがおかしい。そう、それを――』

『――俺にとってのそれは、ただの驚愕と唖然。苦難の序章。日常の強奪。だから、その時はまだ、その先に待ち受けるものを知る由もなかった。ありえるはずがなかった。だって、その先にあるものを――』



――私が、どこかのだれかに、心から言いたかった、誓いの言葉を言い放った。

「私、ジュリエット=キャピェレットと結ばれなさい。ロミオ=レイ=クルーカス」

――俺が、どこかで見た、美しい顔が、いつかのようにこちらを向いていた。




『『――きっと、世界は"恋"と呼ぶ――』』




 騎士と姫の恋物語はまだまだ始まったばかり――

ラストが中途半端ですが、ここで終了。機会があれば続きを書くかも。

ていうか、もうほとんど展開は予想がつくでしょう。ここからバッドエンドにできるほど鬼畜じゃないので、あーだこーだあってハッピーエンドになるでしょうから。


楽しんでもらえましたか?

たのしめたのなら、これを機に、自分の他作品にも目を通してみてはどうでしょう? きっとさらにたのしんでもらえますよ!

そうじゃないなら、楽しんでもらえるよう頑張りますよ!


ではでは、またどこかでお会いしましょう!


小山 優

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