Romio and Juliet③
Romio
裏通り 正午頃
ロミオは思考しながら街を歩いていた。
――さて、姫様はどこにいる?
私服とはいえ、動きやすい、革でできた半ば鎧とも言える格好。そこに帯刀しているが、流れの傭兵か賞金稼ぎとでもいえば通じる姿だ。
――家出なんだろうから、理由は『バカ』との結婚が嫌とか、そもそも親に決められるのが嫌とか、そんなとこだろう。なら、どこへいく?
視界に馬車が入る。舗装された石畳の街路を、それだとのんびり過ぎやしないかというぐらいのスピードで通って行った。
馬。遠くへ行くための馬。
売ってるところはいくつかある。だが、真っ当な店では商品の書類や履歴が残る。そこから足跡が見えるのは明白だ。書類を扱わない、詐欺まがいの商店もあるにはあるが 、そんなものは表通りにない。つまり、ジュリエットの行先は、
「裏通りだ」
「了解しました」
口に出すと、察したらしい後輩がすぐさま手配する。
「とりあえず、俺は南のほうを探す。他の奴らも手分けして探すようにいってくれ」
「はいはい」
二つ返事を背に受けて、路地の奥へと歩き出す。
さて、仕事の時間だ。
Juiliet
裏通り 正午過ぎ
「どこまで追ってくんのよ!!」
「ッざけてんじゃねぇよ! このクソアマァ!!」
自分の数メートル後ろを、ガタイが良いというよりただデブなだけの大男が追いかけてくる。
それは、あの『バカ』なんかより数段ウザかった。しかも、身の危険がプラスされて最悪だった。
――いいかげんあきらめてよ!
こんな時だけ自分の顔が憎い。そりゃ、綺麗なことは綺麗だが、これまでその恩恵に与ったことがない。
撒いた、と思えば違う道から現れ、そんなことが何回も続く。やはり地の利は向こうにある。
小一時間そんなことが続き、いつの間にか自分は袋小路に追い詰められていた。しかも相手は三人に増えている。細胞分裂でもしたのだろうか。いやそれにしては体格が大中小とわかれ過ぎている。そうだとしたらかなりの変異細胞だったに 違いない。
「へへっ、お楽しみだぜぇ。おジョーさん?」
――もう最悪!
大――最初にこちらへちょっかいを掛けて来た男は、ジワジワと袋小路のこちら側に近づいてくる。
でも、抵抗する手段はある。
「お、やるのか?」
腰のレイピアを引き抜き、構える。これでも貴族の仲間内じゃ男も負かす強い方だ。
――相手を見据え、急所を狙え…。
狙いは相手の胴の真ん中。外さないようにしっかりと構える。
――相手は丸腰。背中には斧を背負ってるみたいだけど、使う様子はない。
舐めて掛ってきている。ちょろい。いける。
「ッ、セイ!」
自分の中の最高速度。構えた状態から、真っ直ぐに狙った場所へと打ち込む。
軌道は素直な一直線を描いて、だけど、
「 弱ぇ!」
――うそ…!
カン、と軽い音が聞こえて、剣が飛ばされた。綺麗すぎて逆にこちらが爽快感すら覚える。
「ジョーちゃん。そんな柔いブツで戦うのは、無理な話だぜ、おい」
――そんな、バカな。
自分が繰り出した最高の一撃が、男が素手で流しただけで弾かれた。
――貴族連中は、止めるどころか目で追えさえしなかったのに…。
空中で曲がったように飛んだ剣が、くるくると数メートル離れた場所に落ちた。
「他には何かしてくれるのかァ? 刃向うなら、そこそこ楽しませてもらわねぇとなァ!」
気持ちの悪い笑みを悪漢三人は見せ合う。
――どうすることもできない。
武器はない。素手の護身術なんて習ってない。怖い。誰か、なんとかしてよ。何で誰も助けてくれないの。
怯えで腹の奥に嫌な心地を感じ、同時に憤りと不満が心の中に吹き荒れる。
――なんで、私はいつもこんな扱いなの? 色恋沙汰も親に決められ、純潔すら今まさに奪われようとしている。私の選択権は!? 自由はどこに!? 家出した私の責任? 知るかそんなもん!
「おとなしくすりゃいい夢見させてやるからよォ!」
「こっちに来ないでよこのクズッ!」
相手を精一杯の蔑みを込めて睨みつける。しかし、それが虚勢であるのは、相手にも、自分にも解っている。
――ああ、私はここで終わる。夢も、自由も、冒険も、何もかも。
嫌な心地が背骨を上り、頭の後ろを刺激し、だけど手と足には力が入らない。どうすればいい、何かできるのか。いや何もできない 。
すべてをあきらめたその時、
『――右手にすべてを壊す力を、左手にすべてを守る力を』
どこかで聞いた、そんな言葉が流れた。
次は明日