表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Romio and Juliet  作者: 小山 優
3/4

Romio and Juliet③

Romio

 裏通り  正午頃

 ロミオは思考しながら街を歩いていた。

――さて、姫様(ジュリエット)はどこにいる?

 私服とはいえ、動きやすい、革でできた半ば鎧とも言える格好。そこに帯刀しているが、流れの傭兵か賞金稼ぎとでもいえば通じる姿だ。

――家出なんだろうから、理由は『バカ』との結婚が嫌とか、そもそも親に決められるのが嫌とか、そんなとこだろう。なら、どこへいく?

 視界に馬車が入る。舗装された石畳の街路を、それだとのんびり過ぎやしないかというぐらいのスピードで通って行った。

 馬。遠くへ行くための馬。

 売ってるところはいくつかある。だが、真っ当な店では商品の書類や履歴が残る。そこから足跡が見えるのは明白だ。書類を扱わない、詐欺まがいの商店もあるにはあるが 、そんなものは表通りにない。つまり、ジュリエットの行先は、

「裏通りだ」

「了解しました」

 口に出すと、察したらしい後輩がすぐさま手配する。

「とりあえず、俺は南のほうを探す。他の奴らも手分けして探すようにいってくれ」

「はいはい」

 二つ返事を背に受けて、路地の奥へと歩き出す。

 さて、仕事の時間だ。

 

Juiliet

 裏通り  正午過ぎ

「どこまで追ってくんのよ!!」

「ッざけてんじゃねぇよ! このクソアマァ!!」

 自分の数メートル後ろを、ガタイが良いというよりただデブなだけの大男が追いかけてくる。

 それは、あの『バカ』なんかより数段ウザかった。しかも、身の危険がプラスされて最悪だった。

――いいかげんあきらめてよ!

 こんな時だけ自分の顔が憎い。そりゃ、綺麗なことは綺麗だが、これまでその恩恵に与ったことがない。

 撒いた、と思えば違う道から現れ、そんなことが何回も続く。やはり地の利は向こうにある。

 小一時間そんなことが続き、いつの間にか自分は袋小路に追い詰められていた。しかも相手は三人に増えている。細胞分裂でもしたのだろうか。いやそれにしては体格が大中小とわかれ過ぎている。そうだとしたらかなりの変異細胞だったに 違いない。

「へへっ、お楽しみだぜぇ。おジョーさん?」

――もう最悪!

 大――最初にこちらへちょっかいを掛けて来た男は、ジワジワと袋小路のこちら側に近づいてくる。

 でも、抵抗する手段はある。

「お、やるのか?」

 腰のレイピアを引き抜き、構える。これでも貴族の仲間内じゃ男も負かす強い方だ。

――相手を見据え、急所を狙え…。

 狙いは相手の胴の真ん中。外さないようにしっかりと構える。

――相手は丸腰。背中には斧を背負ってるみたいだけど、使う様子はない。

 舐めて掛ってきている。ちょろい。いける。

「ッ、セイ!」

 自分の中の最高速度。構えた状態から、真っ直ぐに狙った場所へと打ち込む。

 軌道は素直な一直線を描いて、だけど、

「 弱ぇ!」

――うそ…!

 カン、と軽い音が聞こえて、剣が飛ばされた。綺麗すぎて逆にこちらが爽快感すら覚える。

「ジョーちゃん。そんな柔いブツで戦うのは、無理な話だぜ、おい」

――そんな、バカな。

 自分が繰り出した最高の一撃が、男が素手で流しただけで弾かれた。

――貴族連中は、止めるどころか目で追えさえしなかったのに…。

 空中で曲がったように飛んだ剣が、くるくると数メートル離れた場所に落ちた。

「他には何かしてくれるのかァ? 刃向うなら、そこそこ楽しませてもらわねぇとなァ!」

 気持ちの悪い笑みを悪漢三人は見せ合う。

――どうすることもできない。

 武器はない。素手の護身術なんて習ってない。怖い。誰か、なんとかしてよ。何で誰も助けてくれないの。

 怯えで腹の奥に嫌な心地を感じ、同時に憤りと不満が心の中に吹き荒れる。

――なんで、私はいつもこんな扱いなの? 色恋沙汰も親に決められ、純潔すら今まさに奪われようとしている。私の選択権は!? 自由はどこに!? 家出した私の責任? 知るかそんなもん!

「おとなしくすりゃいい夢見させてやるからよォ!」

「こっちに来ないでよこのクズッ!」

 相手を精一杯の蔑みを込めて睨みつける。しかし、それが虚勢であるのは、相手にも、自分にも解っている。

――ああ、私はここで終わる。夢も、自由も、冒険も、何もかも。

 嫌な心地が背骨を上り、頭の後ろを刺激し、だけど手と足には力が入らない。どうすればいい、何かできるのか。いや何もできない 。

 すべてをあきらめたその時、

『――右手にすべてを壊す力を、左手にすべてを守る力を』

 どこかで聞いた、そんな言葉が流れた。

次は明日

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ