Romio and Juliet①
夜会の明るさから離れた闇の中、二人の男女は見つめ合う。
「ああロミオ。どうしてあなたはロミオなの?」
麗しき乙女は彼が許嫁に愛を呟く。
「ああジュリエット。君はどうしてジュリエットなのだ?」
高貴な王子は最愛の恋人に愛を誓う。
「何気持ち悪い会話してるんだこいつら」
そして、むさっくるしいもう一人の男は、現実へと世界を戻す。
これは、優男(romeo)じゃないロミオのお話。
春の夜
Romio
「なんちゅう気持ち悪い会話してるんだろうか」
モンタギュー家に仕える魔法騎士団長、ロミオ=レイ=クルーカスは、歯が浮くどころか目が唖然する言葉を吐きあう二人を尻目に、木陰の中で呟く。
「呼ばれてますよ、隊長」
「ロミオ違いだ、馬鹿」
少し離れたところ。ベランダと庭とで対峙している内の片方は、自分が仕えるモンタギュー家長男、ロミオ(Romeo)=ディ=モンタギュー。20歳。面はいいくせに、救いようのない女ったらしのバカだ。
もう片方。屋敷の窓べりから庭に顔を出しているのは、ジュリエット=キャピェレット。17歳。
二人は、モンタギュー・キャピェレット両家が決めた許嫁であり恋人だ。
そして、かくいうこちらのロミオ(Romio)は、
「ロミオさん。近 辺異常なしです」
「あってたまるか。夜会の途中とはいえ、仮にも領主の邸宅だ。俺らが警備するまでもなく、守衛がなんとかしてる」
しがない騎士団長。28歳だ。
部下二人を連れ、長男の護衛を現当主に任されたのが数刻前。夜会を抜け出したバカを追って今に至る。
周りは夕刻の暖かい残光から、夜の静けさへと変わっていっていた。
「バカの子守は疲れるな、まったく」
「そう言わずに。どちらかといえば、守る方は御嬢さんの方ですし」
一人が直に監視し、ほかの二人が別の場所で待機。合理的かつ楽な方法だ。そして、その待機中の自分を含めた二人は、サイコロ遊びに興じている。
「ああ。『婚礼の儀より前に乙女が穢れるでなかれ』だっけか? 敬虔な神教徒 様は大変なこって」
「街に出れば、十歳そこらの女の子が身売りに出されてる世の中なんですけどねー」
顔はバカに負けず劣らず綺麗な後輩――リット=ミリアムは、しかし腹の中はドス黒い。
「あ、僕の勝ちですね」
地べたに浮かんだ青い人形――魔法駒が、ボードのマスを二つ飛ばしで進む。チェック。
「残念。うまく誘いに乗ってくれたな。斜め前から攻城兵器だ」
「あ、いや、嘘…。そんなところから…」
チェックしていた騎兵を、横にいた槍兵が倒した後、自分の攻城兵器が相手の王の前に進む。チェックメイト。
「…また負けた」
後輩はボードを消し、あきらめたように仰向けに寝ころんた。
「団長。なんでそんなに強いんですか…?」
「たかが戦術 遊びだ。兵法書片っ端から読んでりゃ強くもなるさ」
魔法なら絶対負けないのに、と愚痴るリットは、この国の最高教育機関『魔法学院』出身の超天才児だったり、魔法技術の開発で国益に一役買っていたりする。
「適材適所、人には得手不得手があるんだよ。お前はその得手の部分で頑張ってくれりゃあ良い」
自分の頭を掻き、人の気配を感じて中庭を見た。
その方向、庭の暗がりから、自分と同じ鎧をまとった女性が歩いてくる。
「あ、副団長ー」
「逢引は終わったみたいよ。バカが一人で喋ってただけだけどね」
魔法騎士団、女副団長、ラスク=ニル=リステン。スレンダーな体を、青い鎧が隠す。髪が長くなければ、痩せぎすな男かと思う程度には凛々しい。
「了解 。じゃあまぁ、解散。キャピェレットの嬢さんが襲われないようにしてりゃ十分だ。処理は俺がやっとく」
重い鎧を鬱陶しく思いながらも立つ。
「わかりました。お先に失礼いたします」
「同じく~。お先です」
二人は同じように立ち上がり、一緒に暗闇に消えていく。"仲睦まじい"二人の時間を邪魔しちゃ悪かろうし、そっとしておいてやろう。
念のため、と自分の大剣に魔法を宿し、中庭へと向かう。バカが何もしてなきゃいいが。
それは、とても楽しい喜劇の始まり。
Juliet
ジュリエット・キャピェレットはため息一つつきながら、暗い部屋の中、自分のベッドに座る。指を鳴らすと、示し合わせた魔法の灯りがともる。
ロミオ、ロミオ。あなたはどうしてロミオなの。
先ほどの言葉を口の中で呟く。
ジュリエット、ジュリエット。あなたはどうして、
「こんなバカらしい思いをしなくちゃなんないの!!!」
ただの家なら町中に響いてもおかしくない声量が部屋にあふれる。部屋が魔法で防音加工してあってよかった。
「どうしてロミオ? どうしてジュリエット!? 決まってるでしょそんなの!? 両親が云年前にセックスして妊娠した後にそうやって名づけたからでしょうが!? 何!? ほかにどんな答えが必要なの!? もっと過激なプレ イをご所望かしら!? 飲糞!? ケツにイれる!? いっそ寝取られたら!?」
思うがままに叫び、ベッドに寝転ぶ。「クサい! キモい! バカ!」本当防音でよかった。
ジュリエット・キャピェレットは、至極冷めた17歳の乙女であった。
「処女の誓い!? 生涯相手にするのは一人の伴侶のみ!? いつの時代のハナシよ!」
ついでに言えば、彼女は信仰者でもなく、夢見る乙女でもなく、そして俗物的であった。
「云千年前の童貞野郎が勝手に決めた教えになんで私が従わないといけないわけ? あいつたしか子供作れてなかったわよね? そもそも! なんであんなのと私が許嫁なの!?」
父親同士が酒に酔って決めた話が、訳のわからないことになって、修正できなくなった結果である。結局望んでるのは誰も いなかったりする。
ジュリエットはベッドから起き上がり、化粧台の前に立つ。鏡の中には、不満たらたらな表情をした美女がいた。
才色兼備、文武両道、(公共の場では)品行方正の彼女に足りないのは――冒険だった。
「なんで、私じゃない奴が私の道を決めて、私がそれに従わなくちゃならないのよ」
誰かの言うことに従うのが、彼女は大嫌いだった。だから、コルセットもカチューシャもつけないし、下着は動きやすいパンツ。喋り言葉は貴族語ではなく、使いやすい公用語だ。
この家。この屋敷。このしがらみ。両親は自分のためを思ってるとはわかっていても、すべてが鬱陶しかった。外に出たい。冒険がしたい。自由を掴みたい。フライアンドゴーアウェイしたい!
外が苦し いのはわかってる。治安は改善されてきているとは言っても犯罪はあるし、経済のめぐりもまだ悪い。でも、
「自給自足! 逃亡生活? だから何? そっちのほうがこの家で怠けてるより生産的だし刺激的よ!」
そんな答えは何年も前から出ていた。
ふと、カーテンとレース、そして窓べりを見つめる。そして、その長さを計算している自分がいる。
今までは両親や使用人、いろんなことを考えると家を出ることはできなかった。だけど、
(来月には18歳。もう残った時間は少ない)
ベッドの下に隠しておいたレイピア、押入れの奥にしまっておいたローブを取り出す。
ただその日は、ただ魔が差しただけなんだと思う。
もう完成している作品なので、一週間~二週間ですべて投稿予定。四部構成。グランドシナリオの序章部分みたいな扱い。
二年前の奴を見ていると、今にもまして描写不足が多い。説明不足だし。
ワールドシェアリング的には、案外ちゃんとリンク出来ていたのが嬉しいところ。これと「snow white」の間を埋める作品を書きたいな。




