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【脚本】真ネザーワールド リヴァイヴ(冥界蘇生) ~混沌と秩序の双刃(そうじん)~  作者: たくみふじ


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7/12

第7話「黒椿の契約」

「混沌」の魔女と「秩序」の堕天使。最悪で最強な二人の狂気の共闘劇!

◯神奈川県横浜市・北條家 浴室(朝)

湯船に張られた熱い湯から、乳白色の湯気と高級な薔薇の香油の匂いが立ち上っている。

北條孝子(16)が、富士の地下要塞での泥と返り血、そして『虚無』の番人に命を吸われかけた生気のない青白い肌を清めるため、一時間以上もバスタブに身を沈めている。

だが、何度肌をこすり洗っても、何度熱い湯を浴びても、あの感覚だけが消えない。

孝子は湯からすくい上げた自らの右手を、ひどく忌ま忌ましげに見つめる。

白魚のような美しい指先には、今もまだ青白い電撃のスパークの残滓が、パチパチと微かな幻影となって纏わりついているように見えた。


孝子モノローグ

(……気持ちが悪いですわ。吐き気がいたします。地獄の混沌カオスたる赤い炎。それこそがわたくしという存在の全て。だが、あの瞬間、あの忌まわしくも鼻持ちならない堕天使の力と強引に共鳴させられた時、この右手に流れ込んできたのは……あの冷たく、無機質で、苦痛を与えることすら放棄した「浄化」の雷だった)


孝子は湯面を強く叩く。


孝子モノローグ

(美しくない。どこまでも非効率で無粋な力。地獄の住人たるこのわたくしの気高い魂が、あんな血の通わない人形のような天の力に汚されてしまった。わたくしの芸術の中に、一滴の不純な青いインクが垂らされてしまった……!)


その事実が、孝子の完璧であった精神の結界に、初めて「焦燥」という名の醜いヒビを入れている。


◯同・孝子の自室(朝)

湯浴みを終え、上質なシルクのガウンを身に纏った孝子は、アンティークな鏡台の前に深く腰を下ろす。

鏡に映る自分の姿はいつも通りの古風で非の打ち所のない美しき女学生。

だが、漆黒の瞳の奥には魂が「犯された」ことへの強烈な怒りがどす黒いマグマのように渦巻いている。


孝子

「……ガーディ」


孝子が低く冷たい声で呼ぶと、鏡台の足元に落ちていた影がズルリと這い上がり、長身痩躯の執事の姿を成す。

顔の半分を常に不気味な影に覆われた元・地獄の番人、ガーディ。


ガーディ

「へっ。お呼びでございやすか、お嬢様。お加減はいかがで……」


孝子

「気分は最悪ですわ。わたくしの魂の中に、あの女の薄気味悪い青いノイズがこびりついて離れませんのよ」


孝子は銀細工のヘアブラシで黒髪を強く梳かしながら、ギリッと歯噛みする。


孝子

「昨夜のあの『融合』……あれは一体何ですの?わたくしとあの女の力が混ざり合い、あのようなデタラメな破壊の竜巻を生み出すなんて。理屈に合いませんわ」


ガーディの顔の半分を覆う影が、恐怖と畏れに激しく揺らめく。


ガーディ

「お嬢様。昨夜のあの現象……あれは、この宇宙において決してあってはならぬ事象にございやすぜ。冥府の最奥深く、閻魔大王様すらも口にすることを忌み嫌う古文書にのみ記された最大の禁忌でさァ」


孝子

「禁忌、ですって?」


ガーディ

「へっ。光と闇、秩序と混沌、生と死。相反する二つの絶対的な理を無理やり交わらせ、この次元に新たなる『神』を創り出す、禁断の神造術。……あの『神託オラクル』と名乗るバケモノは最初からこれがお目当てだったのですぜ。我々は奴らがその禁忌を証明するためのモルモットにされたんでさァ」


孝子

「……分かっておりますわ。わたくしたちが、あの得体の知れない輩の掌の上で踊らされていたことなど」


孝子はヘアブラシを鏡台の上に叩きつけるように置き、冷徹な目で鏡越しのガーディを睨みつける。


孝子

「ですが、そんなことは今のわたくしにとってはどうでもいいことですの。最大の問題は、わたくしの純粋な魂にあの堕天使の『色』が混じってしまったこと。……あの、全てを冷たく見下すような氷のような瞳」


孝子は傍らのアタッシェケースに視線を向け、右手を強く握りしめる。


孝子

「早くあの女を『懲らしめ』、その綺麗な顔が絶望と苦痛に醜く歪むのを特等席で眺めなければ、わたくしの魂の純粋性は永遠に取り戻せませんわ。ええ、必ず……あの女を、わたくしの針で串刺しにしてさしあげます」


◯兵庫県神戸市・高清水家 音楽室(昼)

完全な防音設備が施された室内。空気は張り詰めた氷のように冷え切っている。

高清水涼子(16)は純白のローブを纏った姿で部屋の中央に立ち、名器ストラディバリウスを構えている。

自らの魂にこびりついた不浄な感覚を洗い流すかのように、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第2番『シャコンヌ』を奏でようとする。

キィィィィィン……ッ!

美しいはずの旋律が突如として耳障りな不協和音となって歪む。

涼子は忌ま忌ましげに弓を止め、自らの左手を見下ろす。

弦を押さえる左腕には物理的な火傷の痕はない。だが、彼女の研ぎ澄まされた精神の目には、あの日孝子の電光剣から伝わった地獄の「赤い炎」の残滓が、醜いケロイドのように肌にこびりつき、チロチロと不快な熱を放っているのがはっきりと知覚されていた。


涼子モノローグ

(……ごっつい、美しくないわ)


涼子の美しい顔がこれまでにないほどの激しい嫌悪感に歪む。


涼子モノローグ

(論理と秩序の絶対的な体現者であるべき私の魂に、あの非論理的で感情的で、ただ相手を嬲るためだけの獣のような「混沌」の熱が混じり込んでしもうた。あんな残忍で下品な女と、一瞬とはいえ魂の最も深い部分で共鳴してしもうた)


音楽室の扉が開き、詫間亨が静かに足を踏み入れる。

腕には分厚いデータファイルが表示されたタブレットが抱えられている。


「――涼子様。お加減はいかがですか」


涼子

「どういう意味なん」


涼子がストラディバリウスをケースに投げ入れるように収めると、亨は痛ましげに目を伏せ、タブレットの画面を提示する。


涼子

「……最悪やわ、亨さん。私のシステムの中に、あの赤い炎のバグが常駐しとう。シャコンヌの完璧な和音すら、まともに弾けへんのやから」


「地下ラボのメインフレームで、昨夜の戦闘データの三次解析が完了しました。結論から申し上げます。……あの『融合』は、制御不能な純粋なバグの極致です」


亨の表情が険しくなる。


「文字通りです。あの赤と青の螺旋エネルギーは、涼子様の極限の論理演算能力ロジックも、相手の混沌衝動カオスドライブも一切受け付けなかった。あれは二つの相反する魂が、互いへの『絶対的な殺意』と『強烈な拒絶』を触媒にして偶発的に発生した、宇宙の法則を破壊するエネルギーです。……もしあの場にもう三十秒留まっていれば、お二人は自らの力の暴走によって魂の構成物質ごと完全に消滅していました」


涼子

「……そんなデタラメな力が、この私の中から生まれた言うのんか」


「そして、最悪の報告がもう一つ。『神託オラクル』はあの制御不能な暴走データを、要塞の崩壊の最中にもかかわらず全て収集しています。奴らの目的は、あの『神の力』とも呼ぶべきエネルギーを意図的に、そして安定的にこの次元で再現することでしょう。そのために、涼子様とあの『赤い閃光』が生きた実験装置として必要不可欠なのです」


涼子は窓の外の灰色の空を絶対零度の瞳で見据える。


涼子

「つまり、私たちはあの下品で野蛮なネズミ女と『セット』で、ええように実験動物にされた、いうことやね」


涼子の青い瞳の奥で、恐ろしいほどの怒りの雷光が静かに明滅を始める。


涼子

「次に会う時は、必ず……わたくしの『雷』で、あの女の存在そのものをこの世のシステムから完全に消去デリートする。そうでなければ、わたくしの『秩序コスモス』は永遠に取り戻せへんわ……!」


◯横浜・聖黒椿女学館 教室(一ヶ月後・昼)

富士の樹海での激闘からおよそ一ヶ月が経過。

色づいた銀杏並木が見える教室の窓際。

休み時間に一人、優雅に紅茶のマイボトルを傾けている孝子がふと虚空を睨みつける。

表向きは完璧なお嬢様として談笑の輪を外れたふりをしている。


孝子

「……ガーディ。最近、どうも不愉快な視線を感じますの。あなた様の『目』とはまた違う、ひどく無機質でねっとりとした気色の悪い視線。心当たりはありまして?」


黒板の陰の影からガーディの苦渋に満ちた声が応答する。


ガーディ(声)

「……申し訳ございやせん、お嬢様。我が地獄の『目』をもってしても、その視線の主の物理座標を特定できませぬ。それは霊的な呪詛でも、人間どもの監視カメラによる物理的なものでもねえ。……まるでこの世界の外側、次元の狭間といった遥か高みから、我々という存在そのものを『観測』しているかのような、とてつもねえ気配でさァ」


◯神戸・聖マリアンヌ女学院 教室(同時刻・昼)

高度な微積分の授業中。

涼子は黒板の数式をノートに書き写す手を止め、背筋を這い上がるような不快なスキャンされている感覚に小さく身震いをする。


涼子

「……亨さん。この鬱陶しい監視プログラム、あんたの技術で排除できへんの?」


涼子が伊達眼鏡の通信機を通じて苛立ちをぶつける。


亨(通信の声)

『……不可能です、涼子様。日本中のあらゆる監視カメラ、盗聴器、衛星回線、全てを常時チェックしていますが、物理的な異常は一切ありません。ですがこのラボの超並列メインサーバーにさえ、正体不明の、しかし極めて微弱なアクセスが常時行われています。それはデータを盗むハッキングではない。……まるで我々の『思考』や『感情の揺らぎ』そのものを、外側から読み取ろうとしているかのような次元の違うアクセスです』


◯横浜・孝子の自室 / 神戸・涼子の自室(夜・カットバック)

ベッドに横たわっていた孝子のアンティーク調のスマートフォンの画面が、突如として真っ黒なノイズに覆われる。

自室で本を読んでいた涼子の銀縁の伊達眼鏡のディスプレイが、激しい砂嵐と共にブラックアウトする。

二つのデバイスに、エレガントでありながら血も凍るほどに冷酷な筆記体の文字がゆっくりと浮かび上がる。


神託(文字)

『――観測終了。データは十分に収集されました。これより、フェーズ2へ移行します。明晩二十時。京都・祇園。最も格式高き御茶屋、『一力亭いちりきてい』。当方の代理人である『彼女』も、お二方をお待ちしております。御二方の、そのご両親やご友人に囲まれた、輝かしくも脆い『日常』を守るために。拒否は、認めません』


その一言が、二人の魂に再び富士での不協和音をフラッシュバックさせる。

『神託』は再び二つの「異常」を同じ檻の中に閉じ込めようとしている。


孝子

「……上等ですわ。わたくしの日常を人質に取るそのふざけた真似、必ず後悔させてさしあげますわ」


孝子はスマートフォンを割れんばかりの力で握りしめ、赤い瞳を光らせる。


涼子

「……ダボが。どこまでも人の論理を舐めくさって。そのふざけたシステム、祇園の夜に完全にデリートしたるわ」


涼子は伊達眼鏡を外し、絶対零度の瞳で決戦の夜を睨みつける。


◯京都・祇園 花見小路(翌日・夜)

芯から冷え込むような氷雨。

濡れた石畳が街灯や提灯の光を反射している。

紅殻格子べんがらごうしの茶屋が軒を連ねる中、一見さんお断りの暖簾を守る老舗の御茶屋『一力亭』。

今夜は完全な貸し切り状態となっている。


◯一力亭・奥の座敷(夜)

枯山水の中庭を望む広大な座敷。

黒塗りの最高級の漆で仕上げられた重厚な座卓を挟み、二人の少女が音もなく座している。

上座には北條孝子。漆黒の絹地に毒々しい赤い椿が大胆に描かれた大正ロマン風のアンティーク振り袖。

下座には高清水涼子。純白の絹地に深い青色の桔梗ききょうが幾何学模様のように正確に配置された加賀友禅の振り袖。

最上級の伽羅きゃらの線香の香りが重く漂い、言葉という物理的な音声は一切存在しない。

孝子は扇子を指先で弄りながら、獲物を値踏みするような残酷な笑みを浮かべている。


孝子モノローグ

(……相変わらず、血の通っていないお人形のような顔ですこと。その純白の着物、わたくしの地獄の炎で真っ黒な炭に変え、赤い血で染め上げてさしあげたい衝動に駆られますわ)


涼子は微動だにせず、氷のような瞳で孝子の着物を不愉快そうに眺め返す。


涼子モノローグ

(……ごっつい、美しくないわ。計算も法則性もあらへん、ただの感情任せの柄。あの赤い色を見とうだけで、私の完璧な論理の内にバグが走るんや。一秒でも早く、この下品な空間ごと完全に浄化デリートしてしまいたいわ)


強烈な殺意と嫌悪感が凄まじい密度で空間を満たしている。

だが、二人が即座に殺し合いを始めないのは、サポート役のガーディと亨が座敷の「外側」で完全に隔離され、待機を余儀なくされているからだ。

一力亭の周囲には常軌を逸した多重の結界が敷かれている。

張り詰めた氷の糸のような静寂が続く。

やがて。

重厚な金襖ふすまが、衣擦れの音一つ立てずにスゥッと開かれる。


◯同・座敷(夜)

部屋に入ってきたのは一人の奇妙な女性。

年齢不詳。漆黒の無地に見える着物は、光の加減で毒々しい虹色や宇宙の深淵のように不気味に揺らめく未知の物質。

女は座卓の正面に足音を全く立てずに滑るように歩み寄り、音もなく座す。


黒椿

「初めまして、赤き混沌カオスの使徒、北條孝子様。青き秩序コスモスの堕天使、高清水涼子様」


女の声は銀の鈴を転がすように美しいが、地獄の底の氷の湖のように無機質で冷たい。


黒椿

「わたくしが、偉大なる『神託オラクル』の代行者。……そう、『観測者ウォッチャー』とでもお呼びくださいまし。わたくしは黒椿くろつばきと申します」


黒椿の顔には一切の感情の揺らぎがない、完璧に作り物めいた微笑みが張り付いている。


孝子

「あなた様の、その悪趣味で執拗な『観測』のせいで、わたくしの優雅な日常はひどく退屈で息苦しいものになりましたわ」


孝子は扇子をパチンと開き、美しい柄で口元を隠しながら氷の刃のような皮肉を放つ。


孝子

「あのような監視の真似事、地獄の最下層の罪人すら嫌がる下等な行為ですわよ。……今すぐその汚らしい視線をわたくしからお外しになって。さもなくば、この場でその眼球をえぐり出してさしあげますわよ」


涼子

「……その下品な視線、わたくしの『美学』に完全に反しとんねん」


涼子も姿勢を微塵も崩すことなく、絶対零度の冷徹な声で言い放つ。


涼子

「他人のシステムに無許可でアクセスし、バックドアを仕掛けるなんて、論理的にも道義的にも最悪のバグやわ。……今すぐおやめなさい。さもなきゃ、あんたのそのバグだらけの存在ごとわたくしがここで完全にデリートしたる」


黒椿は二人の濃厚な殺意を浴びながらも、心底楽しそうに笑い声を漏らす。


黒椿

「フフフ……素晴らしい。実に、お二人らしい。その一切交わることのない、互いを完全に否定し合う純粋な『殺意』と『美学』。……それこそが、我ら『神託』が求めている新たなる世界の『いしずえ』となる極上のエネルギーなのです」


孝子

「礎、ですって?」


涼子

「「神……?」」


黒椿は懐の宇宙の深淵のように揺らめく布地の中から、二つの漆黒の封筒を取り出し、座卓の上に置く。


黒椿

「先日の富士の樹海での『実験』……誠に見事でした。お二方の魂が極限の生存本能と強烈なエゴによって反発し合いながらも、結果的に交じり合い奏でたあの破壊的な『不協和音ディスコード』。……あれこそが、我らが長年求め続けてきた新たなる『神』の産声だったのです」


黒椿の無機質な瞳の奥に、狂信的でドロドロとした黒い光が宿る。


黒椿

「そう。神、です。古きひどく退屈な神々――天界を統べる天照や地獄を管理する閻魔が作り上げた、停滞しきった偽りの『調和』の世界。それを根底から破壊し、この地上に真の『混沌』と『秩序』が永遠にせめぎ合い、血を流し合いながら進化を続ける新たなる『遊戯盤ボード』を創造する。それこそが我ら『神託』の最終目的。そしてお二人には、その新世界の『神』となっていただく」


涼子

「……お断りいたしますわ。わたくしは美しくないノイズとバグをこの世から排除するだけ。神になるやなんて、そんな下品で非論理的な欲望には一ミリも興味あらへんわ。あんたらの狂った計画プログラムにわたくしを巻き込まんでちょうだい」


孝子

「わたくしも、お断りですわ。わたくしはただ、わたくしが望む時にわたくしのやり方で、罪人たちを『お稽古』して絶望させたいだけ。誰かの用意した盤上の駒になるなど、地獄の底の汚泥を舐めるよりも反吐が出ますわ。……さあ、無駄話は終わりですわ。今すぐここから退きなさいあそばせ」


黒椿

「……ええ、分かっております。お二人が自らの意志を曲げない気高き存在であることは。ですから、あなた様方が自らの意志で結果的にその道を選ぶように……我々は最高に刺激的で最悪な新たなる『ゲーム』をご用意いたしましたの」


黒椿は座卓の上の二つの黒い封筒を白い指先で滑らせ、孝子と涼子の目の前へ移動させる。


黒椿

「さあ、開けてごらんなさいまし」


孝子が警戒しながら封筒を開ける。中には一枚の高画質な写真。

写っていたのは、神戸の高清水家の音楽室の窓越しから盗撮された、優雅にヴァイオリンを弾く高清水涼子の「無防備な日常」の瞬間。


孝子

「……これは?なんの嫌がらせですの?」


黒椿

「『神託』からの、あなた様への次なる『契約』ですわ、北條孝子様。その女……高清水涼子を『狩り』なさい。……ただし、殺してはなりません。彼女の命を奪うことなく、生け捕りにして我々の元へ引き渡すのです。見事成功すれば、あなた様を地獄の番人の監視と冥府からの呪縛から完全に解放し、この地上での永遠の『絶対的な自由』を差し上げましょう」


一方、涼子も封筒を開ける。

入っていたのは、横浜の女学館の校庭で取り巻きの友人たちと楽しそうに談笑している北條孝子の「偽りの日常」を完璧に捉えた盗撮写真。


涼子

「……ダボが。どういう意味なん、これ」


涼子の声の温度が一気に絶対零度まで下がる。


黒椿

「『契約』ですわ、高清水涼子様。その女……北條孝子を『浄化』なさい。……ただし、殺してはなりません。彼女の持つ地獄の力を完全に封じ込め、生きたまま我々の元へ引き渡すのです。見事成功すれば、あなた様を天界の監視ネットワークの呪縛から完全に解放し、あなた様が望むノイズの存在しない完璧なる『秩序』の世界をお与えしましょう」


二人の少女は手元の写真と黒椿の狂気に満ちた顔を交互に見比べる。

互いの日常を完全に把握され踏みにじられている事実が、二人の自尊心を激しく逆撫でする。


孝子

「……もし、わたくしがこのふざけた契約を断ったら?」


孝子が声のトーンを極限まで落とし、千枚通しを握る右手に力を込める。

黒椿の笑みが深くなる。


黒椿

「お二人があの横浜の本牧埠頭で繰り広げた血生臭い秘密の『お遊戯』の高画質な映像。……そして富士の地下要塞でバケモノのように暴走した『実験』の映像。それらの全てをインターネットを通じて世界中に公開し、さらにご両親の職場や学校の友人たちの手元に直接郵送させていただくまでです。警察もマスコミも、そして何よりあなた様方が愛してやまない『平凡なご両親』や『ご友人』たちがあなた様方の正体を知り……その完璧な『日常』を一瞬にして破壊しに来るでしょうねえ。軽蔑と恐怖の目を向けられながら生きる世界は、さぞかし居心地がよろしいでしょう」


最悪の、そして一切の逃げ道を塞ぐ完璧な脅迫。

黒椿は着物の裾を優雅に翻して立ち上がり、最後に決定的な一言を付け加える。


黒椿

「ああ、それから。この『契約』には厳格な期限がございます。……ちょうど、一週間。もし一週間以内にどちらも『獲物』を仕留められなかった場合……あるいは、どちらかが死んでしまった場合」


黒椿は振り返り、美しく底知れぬほどに残酷に微笑む。


黒椿

「お二人の大切な大切な『サポート役』……。外で待機していらっしゃるガーディ様と詫間亨様。そのお二人の魂を、『神託』が責任を持ってこの宇宙から完全に『処分』させていただきますわ。……彼らの命を救いたければ、相手を狩るしかありませんのよ」


音もなく重厚な金襖が静かに閉ざされる。

広大な座敷に残されたのは、圧倒的な殺意と絶望に凍てつく二人の少女と、卓上に残された二つの黒い契約書。


東の魔女と西の堕天使。

互いを狩り、この忌まわしい因縁に決着をつけて自由を手にするか。

躊躇い、愛する唯一の「家族」であるサポート役の命を失うか。

『神託』が周到に仕掛けた逃げ場のない最終テスト。

互いの血と美学を代償にする、狂気の「共食いゲーム」の冷たい幕が、雨の祇園の夜に残酷に上がりきった。

X(Twitter)では脚本版などもつぶやいています。

https://x.com/TakumiFuji2025

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