表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
71/85

第71話 宣戦布告

 ある昼下がり、首都圏のテレビの全局に奇妙な映像が一斉に放映された。音もなく白い背景に黒い輪のようなマークがあるだけ。


 よく見ればそのマークは蛇の頭が自らの尾を噛むデザインであることに気付くはずだ。


 しばらくそのマークが放映されたと思うと金髪に碧い目の青年が現れる。


 彼は膝までを覆うマントに全身を包み、膝から下は麻で出来たズボンと革のブーツを身に着けていた。


「やあ人類諸君。お昼の楽しみを奪ってしまってすまないが、重要な話だ。よく聞いて欲しい」


 その中継は動画配信サービスでも同時配信され、SNS上でもすぐさま話題の種となった。


「新宿駅一帯にはなるべく近寄らない方がいい。最低限の配慮はするが、いずれ戦場になるからね」


 テレビが乗っ取られている今、インターネット全体を「この男は何者か?」「この人物は正気なのか」といった話題が席巻する。


「諸君も気付いているだろう? 東京で不自然な大火災が連続して起きた後、東京中に怪現象が多発している。政府は大火災についてはテロ組織の仕業だと言うが、それだけでは説明できないと皆もわかっているはずだ。そして先日の東京拘置所のガス爆発。普通じゃない。そしてここから先は話半分で聞いてもらってもいいが……この世界は死神とヴァルキリーに管理されている」


 今まで秘匿されてきたヴァルキリーと死神の存在が公の場に晒されてしまった。SNSのトレンド欄は「死神」や「ヴァルキリー」「電波ジャック」等の単語で埋め尽くされている。


「怪現象が止まないのはヴァルキリーが頼りなく、その配下である死神が弱いからだ。僕も追放された身ではあるがその死神の一人でもある。証拠になるかはわからないが……」


 瞬時に両手に一振りずつ二本の剣が出現する。


「この剣はフルンティングとネイリングと言う。名乗るのが遅れたね。僕の名はベオウルフ。知らなかったら手元の板切れで検索してくれ」


 彼が剣を後方に放り捨てると、床へ落ちる前に消えた。


「話が逸れたね。今東京中で起きている化物騒ぎ、心霊現象、オカルト関係の事件は全てそれを処理すべき死神が弱く、頼りないから起きている。だから僕は力のない弱い死神の大粛清を決行するつもりだ。それは何故か? 弱小の死神に割かれているリソースを全て僕らのような強者にまとめ、統治していくべきだからね」


 ヴァルキリーも既に配下の術師たちに命じて放送を止めさせようとしている。だが、彼らでは相手にならない高位の術師によって放送は継続される。


「ヴァルキリーに告げる。君たちは世界の運行管理に専念し、僕らのような強力な死神に世界を任せるべきだ。ここに我々『ウロボロス』は行動を開始することを宣言する。以上だ」


 放送が終わった。


 テレビ放送は全体未聞の電波ジャックについての特集に切り替わり、インターネット上は「ウロボロス」の話題で持ちきりだった。


 ほとんどの者は荒唐無稽なベオウルフの話を信じていないし、理解できていない。


 だが、「剣を出現させたのはCGかどうか」であったり、「『ウロボロス』こそが政府の言うテロ組織でないのか」といった様々な憶測が飛び交っている。この騒ぎで巨大ネット掲示板のサーバーはダウンしたらしい。


 ともかくこれは「ウロボロス」を名乗る組織からヴァルキリーへの明確な宣戦布告だった。




 放送直後、謁見の間にて。


「姉上。どうしてベオウルフの奴が現世に干渉してくるのですか。やはり姉上は『運行管理』に戻られて『ヴァルハラ』を管理されるべきだったのではありませんか」


「黙りなさい。ヘルムヴィーゲ。『ヴァルハラ』の管理に不備はありません。『ウロボロス』の正体こそ、『ラグナロク』の再来のような反動勢力なのでは? それなら現世で死神を管理しているあなたの責任になるでしょうに」


 ヘルムヴィーゲとシュヴェルトライテがそれぞれの持論をぶつけ合う。一触即発の空気を察してロスヴァイセは縮こまり、グリムゲルデが仲裁に入る。


「双方、落ち着いていただきたい。おそらく放送を流させたのは高位の魔術師でしょう。死神だと決めつけるには早計です。『ヴァルハラ』へと連絡をする手段があるのかもしれません。術師を総動員してその者を見つけ出すべきかと」


「無理だな。能力を偽装して現世に潜んでる魔術師なんざ珍しくない。あのアオイとかいう女もそうだ。それに死神になるような魔術師はよっぽどのことをして目を付けられたか半端者かのどっちかだ。あいつらじゃ見つけられない」


 グリムゲルデの意見を一蹴するヘルムヴィーゲ。グリムゲルデは「お前も何か言え」とばかりに仮面越しにロスヴァイセを睨んだ。


「えっと、あのー。やっぱり伯爵が関係していたりして……? 結局いつも裏にいたのはあいつだったし、いやもしかしたらーって……」


「ないだろ。あいつの魔術の痕跡、魔術記号は一切見つかってない。案外ベオウルフに直接会いに行って殺されでもしたんじゃないのか? それはそれで都合がいいけどな」


 これもあっさりと一蹴するヘルムヴィーゲ。ロスヴァイセはさらに縮こまってしまう。


「ヘルムヴィーゲは妹への態度を改めたらいかが? ロスヴァイセが怯えているじゃない。かわいそうに」


「その言葉、あなたにそっくりそのまま返したいですね。ロスヴァイセがビビってるのは姉上に対してでは?」


 再びいがみ合う二人。明確な対立へと移行する直前、謁見の間にトラ猫の使い魔のポコちゃんが入り込んできた。


「駄目じゃないポコちゃん! 今入ってきたら……」


「ごしゅじんとあねぎみたち。そくほう。うろぼろす、せめてくる」




 新宿駅周辺に異変が起き、人々はざわつきながらスマートフォンで写真を撮影している。


 建物はそのまま、足元に触れない浅瀬の海が広がっているのである。


 これは「ウロボロス」による現世への侵略に他ならなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ