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第51話 ブラッディ・バス

 椿が目を覚ますと、ヘルムヴィーゲ陣営のアスファルト上に寝かされていた。


「やってくれたなあ、お前。弟子のことは全部知ってるんじゃなかったのかよ。あ?」


 ヘルムヴィーゲが屈みこみ、椿の胸倉を掴んで引き起こす。


「決闘の結果は『絶対』だって知らないわけじゃないよな? これでヴァルキリーの追加戦力は期待できなくなったわけだ。死神が力を出せなくても姉上さえいれば吸血鬼なんか目じゃねえ。それを……!」


「まあまあ落ち着いてくれよ。姐さん。別に選抜した死神にだけ力を出させればいい話だろ? そういう案もあったじゃんか。結果は結果、受け入れるしかないって」


 人格を再構築されたティルヴィングがヘルムヴィーゲを止める。


 ヘルムヴィーゲは気絶している椿を処刑しようとしたが、それを抑えていたのが彼だった。


「だが敵の規模、装備、扱う術式、死神対策。その全てが不明だ。どれだけの死神を本気で戦わせるか判断できない。慎重に人選を進める必要があるな」


 椿はヘルムヴィーゲ軍の代表としてグリムゲルデを殺す側の死神として決闘に参戦したが、それは敵側に回った一矢を守るためであり、ヘルムヴィーゲの意見全てに同意しているわけではなかった。


「元はと言えば! テメエのせいだろうが!」


 ヘルムヴィーゲが椿を殴り付ける。


「姐さんの上の姐さんがどれほどの力を持っているのかは知らねえけど、グリムゲルデ軍に取って代わるほどの戦力になるのかい? 仮面兵の忠誠心は高いぜ。主を殺されれば第二のラグナロクが生まれるどころか、死神が真っ二つに割れるかもしれない。結果論だけど殺さなくて正解だったのさ」


「剣の分際で主に指図するな!」


「あらあらあら~? 謁見の間を制圧する作戦を一生懸命立ててたのに~。こ~んなところに全軍出払ってるなんて、聞いてないじゃな~い?」


 カグツチの乱で何度も聞いた甘ったるい声。ピンク色の髪をツインテールにした女。「シニガミ・キリングフィールド」運営者。セクレタリーことエリザベートだった。


「わたしは今すごく機嫌が悪い。あのときの馬鹿女だよな? わたしが前に言ったこと、覚えてるか? 解体しながらいつまでその馬鹿声だしてられるか試すってなあ!」


 ヘルムヴィーゲが鋭く抜剣してセクレタリーに斬りかかる。がその手をティルヴィングが力尽くで押さえた。


「罠だよ。姐さん。グリムゲルデの体内に残った毒と同じ匂いがする」


「じゃあ馬鹿女、テメエ……!」


 エリザベートはわざとらしくその場で一回転して、深紅のワンピースの裾を揺らす。


「イェ~イ! 『シニガミ・キリングフィールド』の管理者セクレタリーは表の姿! その裏の姿は叡智主義出身『血戦派』の吸血鬼、エリザベートちゃん! 得意分野はヴァルキリーと死神封じ! あんだすたん?」


 ヘルムヴィーゲ軍の死神がエリザベートを包囲する。


「きゃ~襲われる~! ……なーんて!」


 エリザベートを包囲していた死神たちの足元から一斉に赤黒い杭が生えた。


 爪先だけ裂かれた者、身体を斜めに貫かれた者、真っすぐ脳天まで貫かれた者まで様々だったが、無数の杭が一瞬で死神たちを貫き、次の瞬間には地面に消えた。


 そして杭によって死んだ者、致命傷となった者は杭と同様に地面に沈んでいく。


 椿、ヘルムヴィーゲ、ティルヴィングの三者を狙ったものは全てティルヴィングによって切り落とされていた。


「ヴァルキリーを仕留められなくてざーんねん。でもでもこの攻撃にいつまで耐えられるか見てるから、精々踊ってちょうだいな! それでは、エリザベートちゃんからでした~」


 椿が発砲するが、エリザベートは黒い霧のように姿を変え空気に溶け込むように霧散する。


 ロスヴァイセ・グリムゲルデ陣営でも同じ杭による攻撃によって多数の死傷者を出していた。


 突然杭が生え、死神の場所を追うように地面に消えた杭がどこまでも発生し続けるのである。

 

 そして避け損ねて死んだ者、深い傷を負った者は地面に沈んでいく。


「いい!? 命懸けでアマガセを治しなさい! この犬は大戦の英雄でもあってお姉さまの恩人でもあるの! ロスヴァイセの名に賭けて守り通すわよ!」


 一矢の回復をしている術師たちに回避しながらの治療を命じるロスヴァイセ。彼女は自身を狙う杭を打ち崩しながら、術師周辺の杭も破壊する。


「──起動・死神殺戮領域」


 どこからか聞こえた声が届くと同時に、ロスヴァイセの身体から霊力が流れだし、動きが急激に重くなった。杭を避けきれずに彼女の太ももが貫かれる。


「こっちに来い!」


 ロスヴァイセがヴァルキリーの権能で、一矢の回復に当たらせていた術師の一人を引き寄せ盾にした。術師の胸に矢が突き刺さる。


「撃て!」


 初撃でロスヴァイセを仕留められなかった吸血鬼、桐子は苦い顔で部下の下級吸血鬼に「血弾」の斉射を命じる。


 ロスヴァイセは術師たちを一矢と自分を守る盾にしつつ、杭を打ち払いながら強制的に治療を進めさせる。


 だがロスヴァイセは死神の使役をしながら、全体的な死神たちの弱体化を感じ取る。


 次々と術師が倒れ、地面に飲み込まれていく。意識を失ったままの一矢をロスヴァイセが無理やり動かし逃走を図る。


「仮面兵たちは何してんのよ!?」


 次々と撃ち込まれる銃弾と血矢、生えてくる杭を剣で切り払いながらロスヴァイセが絶叫する。


 その仮面兵たちは始めこそ少数のチームで杭を的確に打ち払うチームワークを見せていたが、手や足に血の刃、血牙(けつが)を纏って徒手空拳で戦う吸血鬼のレナードによって一息に崩された。


「死神の血のドリンクバーじゃんか! これじゃあ後方のやつらがかわいそうってもんだ!」


 仮面兵の首を落とし、噴き出す血を四肢の血牙から吸い取りながらせせら笑うレナード。彼らを指揮する立場のグリムゲルデは仮面兵の術師たちの結界で守られていた。


 仮面兵の術師たちは伏せっているグリムゲルデを逃がす術は無いと判断。自らの命を術式に捧げ強化した結界で彼女を杭から守ったのだ。


「おっと。姐さんの命令だ。こっから先は通さないぜ」


「誰だよ」


 グリムゲルデの結界を破るべく近づくレナードの目の前に、風のような速さで現れた男がいた。


「ティルヴィングだ。お前さんこそ……いや名乗らなくていい。無駄だしな」


「調子こくなよ、タコ!」


 レナードと出力制限のされたティルヴィングの打ち合いが始まる。




 そんな混沌とした戦場を駆ける一人の死神がいた。椿響子である。


 ヘルムヴィーゲ陣営とは正反対の方向に運ばれていったという一矢。彼の身を案じていたのだ。


 杭を避けながら、身体強化に霊力を回し懸命に走る。


「我が名はイライジャ。貴様ら死神はここで──」


「邪魔だッ!」


 下級の統一された装備をしていないことから一定の階級にある吸血鬼だと思われるが、椿にそこまで考える余裕はない。赤口(しゃっこう)で斬る。


 異能者の血である「貴き血」(ブルーブラッド)で強化されたことによる自負があったのか、彼はあえてその一撃を受けて見せた。


 結果、死神としての力を取り込んでいたイライジャは赤口の想定を超えた威力に悶絶し、無様に地面を転がることになった。


 吸血鬼の猛攻に必死で抗うロスヴァイセが椿の目に映る。


 毒矢だけは避けていたものの、銃弾が何か所も貫通し血塗れだ。


 それでもぎりぎりのところで一矢だけは守り切っている。


「お前! 早くこの犬連れてきなさいよ! 邪魔なんだから!」


 椿の姿を見てロスヴァイセが叫ぶ。その一瞬の隙だった。


 杭を斬り壊そうとしたその剣が矢で弾かれたのだ。


 一矢の胸が杭に貫かれた。治りかけていた傷が裂け鮮血がほとばしる。


 椿は必死で一矢の方へ手を伸ばす。胸を貫かれた衝撃で意識が戻ったのか、虚ろな目で椿を見ながら彼女に向けて手をわずかに伸ばす一矢。


 沈んでいく杭と共に一矢の身体も地面に呑まれていく。


「カズヤあああ!」


 椿の叫び声は銃声にかき消された。

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