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第28話 さくせん:みなごろし

 アオイが転移したのは死神がヴァルキリーと謁見する際の真っ白い空間。


 少し遅れて一矢も飛ばされてくる。


「やあやあ。何かやらかしたのかい? 君の方は近代魔術とは無縁そうだけど」


「俺にも心当たりはないんですが、指名されちゃいまして……」


「へえ? レックスに一太刀浴びせたっていうアレかな?」


 アオイたちの前には先客がいた。


 ローブを着込んで顔を隠した男、ペストマスクを付けた黒コートの男、法衣を纏った仏僧を思わせる男など様々だ。


 それ以外にも国や時代を超えた多種多様な装いの人物が集められている。死神にしては漏れ出る殺気のようなものがないと一矢は感じた。


「使えねえ。マジで。子飼いの魔術師はこれだけか?」


「いえ。あと一人来るはずです。アオイという無名の魔術師ですが“共喰いツバキ”の推薦です」


「どっちも知らないっての」


 集められた者たちが退去させられると、空間に短時間の映像が繰り返し投影されているのが目に入る。


 ヨーロッパ風のコートを着込んだ者、武士のような姿の者、そして霊体のように揺らめく実体のない者が順番に映る。


 一矢はその映像を見てあることに気付く。


 忘れるわけもない初めての招集。メイジーにぶつかる直前の記憶だ。


(でもどうして俺の記憶が映し出されて……)


「ははあ。このゆらゆらした影の正体が知りたいってことでいいのかい? ええと……」


「ヘルムヴィーゲだ。正体なんかとっくに知れてる。そのクソはラグナロクとかいうクソ溜めの王様気取り、カグツチ」


「へえそいつがカグツチ。そもそも死神だったんだ。アレ」


 興味深げに一時停止された映像へ目を凝らすアオイ。


「お前にはこれが何に見える?」


「ゆらゆら……もやもや?」


「もういいわ。こいつも返してやれ、グリムゲルデ」


 ヘルムヴィーゲはアオイに背を向け、グリムゲルデにアオイを帰還させようとする。


「待って待って! このもやもやの居場所を突き止めたいんだろ? 違う?」


「できんのか? できないのか?」


「ええ、まあ。この子の脳を少し借りてもいいならね」


 アオイの発言に一矢は思わず距離を取ろうとする。が、動けない。ヴァルキリーの権能だ。


「勝手にしろよ」


「大丈夫。痛くなーい痛くなーい。目の前の映像に集中して。当時のことを思い出してみよう。よーくね」


 アオイは一矢の頭に手のひらを当て目を閉じ、一矢の記憶を追体験することでカグツチの痕跡を読み取ろうとしている。


「これは確かに死神から見るともやもやしてくるわけだ。対死神用の認識阻害の魔術。しかも近代……というかオリジナルに近いな。これは死神や古い術師じゃわからないかもね。ラグナロク側の魔術師の面子は?」


 その目で見た一矢には認識できなかったことが、アオイの視点ではその場にいるかのようにわかるようだ。


「サンジェルマン伯爵、パラケルスス、なんとかクロウリー」


「それだ。多分アレイスター・クロウリーの近親者。魔術記号もわかりやすい。Cのマーク。わざとらしいなあ」


 アオイはにやにやと笑みをこぼしながら解析を続ける。


 魔術記号という初めて聞く単語も出てきた。一矢は当時の記憶に集中する。


「勝手に盛り上がってんなよ。少しは教えろ魔術オタク」


「おっと失礼。魔術師が魔術を行使した際には大小問わず何かしらの痕跡が残るんだけど、術師によって形も違うんだ。特に自己顕示欲が強いタイプはこの痕跡が自分のマークになるように凝ったりするものさ。で、今回の魔術痕跡はハッキリとしたCの文字になってる。伯爵(comte)のCじゃなければ十中八九ミスター・クロウリーのものだと思うよ」


 一矢が見てきた中でかつてなく饒舌に魔術世界の説明を始めるアオイ。


 以前死神の研究をしていたからか、死神たちの頂点に君臨するヴァルキリーに自身の知見を求められたことにより興奮気味だ。


「で? その情報から何ができる」


「Cのマークを追っていけば奴らの本拠地がわかるかな」


「マジか。グリムゲルデ、最初にこいつを呼べよ」


 グリムゲルデは深々と頭を下げた。アオイは一矢の頭から手を放すと、カグツチが立っていた辺りまで歩いて行って痕跡を探す。


「サンジェルマン伯爵にパラケルスス、そしてクロウリー氏かあ。こりゃあ権能を持ったままの死神がまだいるかもしれないぞ」




「ティルヴィング」


「僕の出番か。きっと敵は酷いやつなんだろう?」


「ベルリヒンゲン」


「相変わらず陰気な小僧だなあ! ティルヴィングよ。しっかしいつまでも寝かされてたらこの腕が錆びちまうってもんだぜ!」


 ヘルムヴィーゲが名前を呼ぶと、即座に二人の死神が彼女の両脇に現れる。


 どこか物憂げな雰囲気のある金色の目をした白髪の少年と、文字通り右腕が鉄製義手の中年男の二人組だ。


 少年は白いシャツに黒のスラックス姿。義手の男は義手の右腕以外が甲冑で覆われている。


「この作戦はわたしとグリムゲルデの直属で行う。文句ないよな? ロスヴァイセ」


「でも、お姉さま……!」


「じゃあ出せる駒がいるのか? いないよなあ? みんな爆弾にしやがって!」


 ロスヴァイセはうつむきながら唇を噛んだ。


「そこの小僧。金に困ってるんだろ? うちのティルヴィングより早くレックスを殺せたら借金を帳消しにしてやってもいいけど、どうだ? やるか?」


「いいえ。お金は長い死神人生で少しずつ払っていきます」


「へえ? 死神の総司令であるこのヘルムヴィーゲの厚意を無下にしようってか?」


 一矢が今生きているのは、レックスに情けをかけられたからだと彼は認識している。


 死神として、そして一人の戦士として目覚めつつある一矢は、胸に抱く決意を言葉にしヘルムヴィーゲにぶつけた。


「まだ俺とレックスとの決着はついていません。作戦には参加しますが、今回は金のためには戦いません」


 それを聞いてヘルムヴィーゲは手を叩き哄笑する。


「ハハ、何百年ぶりに笑わせてもらったわ。堅物の妹(ジークルーネ)が死んだのも悪いことばっかじゃなかったかもな」


「姉上、それ以上は……」


「作戦はラグナロクの本拠地を捕捉次第始める。私はアホの前総司令とは違って、敵が動くまでわざわざ待ったりはしない。問答無用で転移するからいつでも死にに行けるように覚悟しておけよ!」


 グリムゲルデの制止を無視してヘルムヴィーゲが話し続ける。


「けどよおヘルムヴィーゲの姉御。作戦とはいうが、具体的に何かあるのかい」


 ヘルムヴィーゲ配下である鋼鉄義手のベルリヒンゲンが問う。


「おうあるとも! 皆殺しだ!」


 ヘルムヴィーゲは勢いよく答えた。

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