⑦ 雪村と弓子
「さて、私もめでたくひとヤマ越えたことだし…。」
そう言いながら雪子は雪村をエレベーターへ連れて行く。
「…貴方にも、そろそろ決断してもらわなくっちゃね。」
「えっ?」
そう言われて、少しどぎまぎする雪村。
二人は2階についたエレベーターを出て会議室へ向かう。
「この部屋に酒井弓子さんを待たせて居ます。」
「はい?」
「今から、お互いに思いのたけを告白し合いなさい。」
「ええっ!?」
「ずっと好きだったんでしょ?」
「それは…そうですけど。」
「じゃあ、どうぞ。一席設けましたから。」
「でも…中学校を卒業以来、一度も会ってないのに…。」
「早いものよね。もう気がつけば23歳…。」
「う~ん。ずっと好きだったなんて、逆に気持ち悪くないですか?」
「…さあ、どう感じるかは人それぞれかしら。」
「…。」
「ちなみに、前にも言ったと思うけど、彼女に対しては、どんなウソも無駄だから。くれぐれも気をつけてね。」
「…ああ、確か読心術。テレパシイ…とか?」
「まあ、そんなところ。とにかくウソには敏感よ。」
喋りながら雪子が扉を開けると、弓子はテーブルに手をついて立っていた。
「弓子さん、お待たせ。雪村を連れて来たわよ。雪村、入って。」
「ご無沙汰してます。弓子さん。」
「おひさしぶりです。雪村君。」
二人が挨拶を済ませると、雪子か席に着くように促す。
「さて、30分ほど時間をあげるから、あとは若い二人で存分に語らって。」
無言の二人。
「私はしばらく席を外します。」
そう言って雪子は会議室の扉を閉めた。
これくらいのサービスはいいわよね?
彼女は、上の方の誰かさんの評価を少し気にした。
まず雪村が口を開いた。
「あの、キミにはウソが通じないらしいから、率直に本音を言うよ。僕はキミのことが、ずっと好きだったよ。そして今でも…。」
雪村の心がダイレクトに伝わって、弓子の顔は真っ赤になった。
「私も…貴方のことが…ずっと好きでした…今もです。」
雪村の顔も真っ赤になってしまった。
なんとも純情な二人である。
「…でも。」
弓子が一つの疑念を口にする。
「村田京子さんのことは、いいの?」
「ああ、彼女のことか。」
次の言葉を発する前に、彼の心の動きが伝わって来る。
「彼女は大切な幼なじみで、お互い気心が知れていて、僕のことを全肯定してくれるいい人だけど…残念ながら一緒に居ても心が休まらない。」
「僕はキミの心を癒したいし、キミに心を癒されたい。そういう間柄になりたいんだ。」
彼はウソを言っていない。弓子には分かる。
「キミが病気になったと聞いた時には、とても心配したよ。でもお見舞いに行く勇気が無かった。もっと早く好きだって言えばよかったって、後悔もしたよ。その後も病気が完治したって聞いた時には、ホッと胸を撫で下ろしたものだよ。キミの幸せをずっと願っていたよ。」
雪村は涙ぐんでいた。
「もっと早く言わなくてごめん。」
「いいのよ。それはお互い様だもの。」
二人は向かい合ったテーブルの上で、お互いの手を握った。




