⑤ 時空の監視対象者
『ここはフェアプレイの精神で、キミに全てを説明したいと思う。』
相変わらず変な声のままの雪村が言う。
「そうね。遠回しな話はキライだけど、丁寧な説明は好きよ。」
雪子が答える。
『この世は、まず点の世界、つまり0次元の世界から始まった。』
えっ、そこから?と思ったが、雪子は敢えて突っ込まずに、黙って聞くことにした。
『次に世界は1次元、線の世界になった。点の世界の住人は、横に移動できる線の世界の住人をまるで魔法使いのように思った。』
『そして世界は2次元に変化した。それは平面の世界だ。やはり1次元の住人から見れば、縦にも横にも行ける、魔法のような移動が可能だ。』
『やがて3次元の世界ができた。縦横に加えて高さもしくは奥行きのある世界だ。もちろん2次元人にとっては上方向の移動は魔法だ。』
『さらに、世界はこれで終わらない。4次元もあるのだ。さあ、もう一つ自由になる方向があるとすればそれは何かな?雪子君』
突然の質問に対して、予期していたもののように、雪子はすんなり答える。
「それは…時間ね?」
『その通り。我々はその世界の4次元人だと言えばわかるかな?』
「なるほど。」
『我々は第4の方向である❝時間❞の中を、過去・現在・未来 のどこでも自由に行き来できる。キミたち3次元人から見れば魔法使いというわけだ。』
「じゃあ私は、めでたく本物の魔法使いに出会えたというわけね?」
それほど嬉しそうでもない顔で雪子は答えた。
「それで…その魔法使い様が、私に何の御用なのかしら?」
彼女は尋ねる。
『近頃、3次元の住人でありながら、時間の中をを自由に行き来する者あり。それどころか、並行宇宙への随意の移動まで可能にした。そしてその移動には、精神体のみならず、限定的にせよ、物理的な肉体まで持って行けるようだ。その者を監視対象にすべし。』
雪村の中の何者かが長いセリフを言い終える。
「…そんな感じに、5次元人から指令が下ったのね。」
雪子が先に結論を述べた。
『!?』
雪村の中の魔法使いは驚いたようだった。
「並行宇宙を自由に飛び回るのは、5次元人の特権だものねえ。」
雪子はしゃべり続ける。
「付け加えるなら、アナタたち4次元人は、低級な5次元人が一つの時間軸に閉じ込められた者。私たち3次元人は、更に低級な4次元人が、時間を自由に行き来できないように、成長とともに劣化する物理的な肉体に閉じ込められた者。…つまり本来、高次元の存在は皆、精神体として存在しているのよね?」
「6次元より高次の存在のことはわからないけど、大方、似たり寄ったりのことでしょう。考えるのもくだらないわ。」
そう言い放つと、雪子は相手の出方を見ることにした。




