④ キミは誰だ
「さて、そろそろね。」
そう言うと、弓子を会議室に残し、雪子は下りエレベーターに乗る。
そして1階のエントランスホールに出ると、表の門から来る真田雪村を待っていた。
雪村には以前に、掌認証パスを渡してあったので、時間どおりすんなり自動ドアを開けてやって来た。
彼はエントランスに入るなり、エレベーター前で腕組みをして、仁王立ちしているセーラー服の少女を見て、ギョッとした。
「あ、ああ、雪子さんか。どうしたんです?そんな門番みたいなポーズで…。」
「門番…そうね。今はそうかもしれないわね。」
「なんか僕に話があるって聞いてるんですけど…。」
「そうなの。悪いけど、ここで少しだけ立ち話をさせてくれるかしら。」
「ええ、イイですけど…。」
「ねえ、貴方、確か私と初めて出会ったのは、大学で頭をぶつけた時だったわよね?」
「そう…ですね。」
「それ以外に、私に何か報告することは無いかしら?」
「いや…別に?」
「…そう。ところで、村田京子さんはお元気かしら?」
「村田…ああ、幼なじみの。ええ、今でも時々会いますよ。」
「それだけ?私と貴方と京子さんとの、あの夜の思い出は…覚えてる?」
「???」
「よく解ったわ。」
「はい?」
「単刀直入に言うわ。貴方、誰なの?」
「雪子さん、何を言って…。」
「だって、おかしいでしょ?」
「私はこれまで、貴方の過去に何度も行って、貴方の人生に介入してきた。そして、貴方とたくさんの会話もしてきたわ。」
「そしてその後、あなたの現在である❝この昭和❞に帰って来たのよ。」
「なのに、あなたの記憶は何一つ変わっていない。」
「一度過去をいじったら、同じ未来には戻れないはずなのよ。」
「この研究所だってそう。あなたの過去をいじる前に建設したものが、なぜここに無事に存在しているのかしら?」
そんな感じに一気にまくしたてる雪子に対して、雪村は何故か、まったく動じる様子も無い。そして彼は言った。
「他には?」
「そもそもコレは、私に対して、始めから仕組まれていたことなのかしら?」
「コレとは、僕との出会いのことかな?」
「そうよ!」
すると雪村は、さも愉快そうに、くっくっくと薄く笑った。
『さすがは3次元空間の逸材。よく気づきましたねえ。』
『この物理的なボディは雪村君のものですよ。ワタシはキミと意思の疎通がし易いように彼の身体を拝借しているに過ぎない。』
雪村の声色が変わった。何だかAIが喋ってるみたいだった。




