② 不死身の雪子
暫くして、雪子が目覚めると、卓上の内線電話のスイッチが点滅していた。
あれっ、ちょっと寝てしまったのかしら?彼女は朦朧とした頭のまま、そのスイッチを押して受話器を取る。
「はい。何かしら?」
「ああ、雪子さん、大丈夫ですか?全然応答が無いから、もう少しで非常手段を取るところでしたよ。」
電話口の向こう側で、杉浦鷹志が心配そうに尋ねた。
「大…丈夫よ、たぶん。」
雪子はまだボンヤリしている。
「雪子さん、もうワクチンは打ってしまいましたか?」
「ええ、ついさっき…。」
「そうですか。…実は僕、一つ大きな思い違いをしていまして…。」
鷹志が突然聞き捨てならないことを呟く。
「あの、調合したワクチンなんですが…あれ、不老不死の秘薬というよりは、むしろ、不死身に近い状態になってしまうものでした。」
「それって、どういうこと?」
「つまり、ちょっとしたケガや病気ならば、超速再生してしまう類のモノでして…。」
「…。」
「まあ、要するに、雪子さんは今後、たとえ死にたくなっても、簡単に死ねない身体になった、ということなんですよ。」
そんな鷹志の言葉を、相変わらずボンヤリとした意識の中で、雪子は聞いていた。
「…あ、ああ、そうなのね?」
それじゃあまるで、マーベルコミックスのウルバリンやデッドプールみたいじゃないの?私もとうとう「人外の仲間入り」という訳ね。そんな風に思えたら、何だか愉快になってきた。
電話口から雪子のクスクス笑う声が聞こえてきたので、鷹志はいよいよ心配になって来た。
「ちょっと、今からそっちに行きますよ?」
「どうぞいらっしゃい。地下2階のセキュリティは解除しておくわ。」
まだ笑いながら、雪子が答える。
エレベーターで鷹志が降りて来たころには、もう雪子はセーラー服に着替えて、しっかりと覚醒していた。
「大丈夫ですか?ホントに申し訳ないことをしました。」
「いいのよ。まんざら望みと違うというわけでもないもの。」
「立ち話も何だし、一緒に上に上がりましょう。」
むしろ快活に雪子が促す。
「…はい。」
心配が拭いきれない鷹志が後に続く。
二人は折り返しエレベーターで2階まで上がった。
「あれ?」
エレベーターの中で、ふと鷹志が気づく。
「雪子さん、そんな瞳の色でしたっけ?」
「ああ、もともと茶色かったけど、何だか金色っぽくなったわよねえ。」
彼女自身、先ほど自分でも鏡で確認して、ビックリしていたのだった。




