⑬ チカラvsチカラ
「それはそうと…。」
思い出したようにサン・ジェルマンが言う。
「そろそろ京子さんのチカラも見せていただけマスか?」
言われた京子はハッと我に返る。
いけない。どうもこの男の話には引き込まれてしまう。
話し方のせいか、声色のせいか?
二人で歩いているうちに、ちょうど小さな池の前に差し掛かっていた。
このタイミングも、恐らく彼の計算通りなのだろう。
気をつけないと何もかも操られてしまいそうだ。
京子はおもむろに右手を開いて前に差し出す。
すると池の表面の水が集まり出し、中央から噴水のように上がり出した。
やがて空中で水の球体ができると、次の瞬間、それは氷の玉になった。
京子はその球を、チカラを使って右手の上まで引き寄せる。
「まあ、基本的にはこんな感じです。」
京子は手の上に氷の玉を浮かせながら、彼に話しかける。
「今のように、すぐ近くに水場が有ればラクにできるんですけど。最近では、空気中に少しでも湿度が有れば、何とか再現できるようになりました。」
「素晴らしい!」
彼は目を輝かせて喜んでいた。
「因みに私にはこんなこともできマスが…。」
そう言うと彼は両方の掌の上に、一瞬で炎の玉を出して見せた。
「コレは空気中の微細なチリを集めて、着火しているに過ぎナイ。常温の物に熱を加えるだけデスから、イージーな技なんです。でも貴女のソレは違う。常温の物を氷点下にするなど、とてもニンゲン技とは思えないデスね。」
彼は自分のことを誉めているんだろうか?それとも化け物扱いしているのだろうか?京子はちょっと分からなくなった。
「もちろん、貴女の才能を賞賛してマス。」
また心を読まれた?まさかこの男も弓子と同じ力を持っているのか?
京子は警戒する。
「私のもう一つのチカラは洞察力です。コレは読心術ではありません。相手の微妙な態度や声色、表情の変化などから、心を読み解くワザです。昔から手品師やペテン師が使っている、伝統的な技能デス。」
「…なるほど。でもほとんど読心術に近い精度なのね?」
「ハイ。何しろ私、人生100周目以上ナノで。」
彼は笑顔でそう言ったが、京子はもう笑えなかった。
たぶん他にも色々なチカラを隠していそうだ。
その中にはきっと相手の心を操る術もあるのだろう。
しかしそれはやっかいだ。解っていても防ぎようがない。
だってもう既に、彼の術中にハマっているのかもしれないのだ。




